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月刊「教育旅行」掲載記事ブログ

視察レポート

函館・洞爺湖・札幌エリアで学ぶ北海道の歴史・文化と防災・減災(2024年3月号掲載)

2024-03-08
文・写真=(公財)日本修学旅行協会 事務局長 高野 満博
月刊「教育旅行」2024年3月号掲載
※本記事中の情報は執筆当時のもので、その後変更されている場合があります。
最新情報は問い合せ先にご照会ください。


昨年の夏、一昨年に続き(公社)北海道観光振興機構の取り計らいで、渡島(おしま)、胆振(いぶり)、石狩という道南・道央地域を視察する機会をいただいた。
北海道の南の玄関・木古内町
みそぎの郷きこない
北海道新幹線で新函館北斗駅から入り、まず木古内(きこない)に向かった。木古内町は、江差や松前に行く分岐点となる町で、近年開通した函館江差自動車道を使えば函館市内まで約30分の距離にある。太平洋に面していて、正面には津軽海峡が広がる。訪問したのは北海道最南端の鉄道駅、木古内駅に隣接する道の駅「みそぎの郷きこない」。町の中心となる場所で、ここを起点に様々な体験が可能だ。毎年1月には、豊漁豊作を祈願し「寒中みそぎ」の神事を行うが、その素晴らしさを伝えたいと、「みそぎ浜」から汲んで作った「みそぎの塩」を特産にしている。この塩を使った塩パンをいただいたが絶品で、他にも人気の塩ソフトクリームがある。

津軽海峡は寒暖の潮流が交差する豊富な漁場で、ここでは地引き網体験ができる。牡蠣の養殖もしていて、漁場まで漁船に乗船し、見学することも可能だ。また、畜産業も盛んで、搾乳体験や子牛の給餌体験などもできる。地元の食材を利用し海鮮バーベキューやジンギスカン等も、リクエストに応じて柔軟に対応してもらえる。函館エリアを訪問すると、朝市などで海鮮を食べることが多いと思うが、一次産業の体験を通して、その現状や関わりを学んでもらいたい。
函館で縄文文化を学ぶ
     国宝 中空土偶
2021年にユネスコ世界遺産に登録された「北海道・北東北の縄文遺跡群」のひとつ、垣ノ島遺跡に隣接する函館市縄文文化交流センターを訪れ、学芸員の方にご案内いただきながら見学した。ここは縄文時代の草創期から晩期まで、すべての時代の展示があるのが特徴。中に入ると、修復された大きな土器が壁一面に展示されていて圧巻だ。この地域では1万年以上もの長きにわたって、気候の温暖化や寒冷化にも適応しながら、農耕社会に移行することなく、漁労、狩猟、採集で生活が成立し、定住していたそうだ。農耕、牧畜が加わり、土地所有の概念が争いの要因となったことと比較すると、この地の縄文時代は平和な時代だったという。幼くして亡くなった子供の足型や手形を写し取った副葬品「足型付土版」という珍しい展示物もあり、古代から親の子に対する愛情は変わらないことがわかる。北海道で初めて国宝に指定された「中空土偶」も展示されている。土偶はその多くが破壊された状態で発見されることから、故意に破壊されたと考えられていて、この土偶も頭部が欠損している。是非この国宝を自分の目で見て、その理由を想像してもらいたい。学校団体向けには、センターや垣ノ島遺跡のガイド付き見学のコースがあり、勾玉作りや組みひも作りといった体験学習もできる。
函館ベイエリア
函館市内に移動し、函館湾に面した海沿いのベイエリアを散策した。赤レンガ倉庫や洋風建築を利用したレトロな雰囲気の場所で、解放感がある。ガラス工房やオルゴール館など函館ならではの店も多くあり、グループ行動でも買い物や食事が楽しめるスポットだ。海運業の発展と衰退、その後の建物の利活用等について調べてから見学すると、探究テーマとしても面白いだろう。
洞爺湖有珠山ジオパークで災害への備えを学ぶ
火山科学館の展示
函館から北へ、函館新道・道央道を利用し洞爺湖に向かった。約11万年前の巨大噴火でできた洞爺湖、および約2万年前の火山活動でできた有珠山一帯は「洞爺湖有珠山ジオパーク」に指定されている。

2000年の有珠山噴火と火口から噴出した熱泥流による災害遺構と、火山科学館および洞爺湖ビジターセンターを見学した。今でこそ地面は緑に覆われているが、火山灰を被り廃墟となった建物を見ると、洞爺湖の前にある自然の美しさとともにその脅威を感じる。火山科学館では、有珠山噴火時の写真や、曲がった線路や被災した車などの実物が展示されていて、その噴火のすごさが感じられる。2000年の有珠山噴火では、予兆地震から研究者の助言を受け、行政と住民が冷静に避難したことにより、被害者ゼロを実現した。有珠山は20年から30年周期で噴火を繰り返す火山で、噴火の前兆として地震などの現象が観測できるため、地震から噴火を予測して避難が行われたそうだ。自然災害が多発する現代において、備えることの重要性を学ぶことができる。館内で印象深かったのは、ミラービジョンで避難所の生活を再現した展示だ。避難所で大切なことは「公平公正」、「お互いさま」であることを、実際にあった出来事を通じて子供にもわかりやすく説明していて、被災した人々が避難所で知恵を出し合いながら、皆で助け合い、苦難を乗り越えたことがわかる。併設されているビジターセンターでは、洞爺湖の特徴や、ここに生息する動植物の情報を紹介しているので、周辺を散策する前に見学するとよい。

近くにある北海道洞爺湖サミット記念館にも立ち寄った。北海道洞爺湖サミットは、2008年7月に8か国の首脳と欧州連合の委員長が集まって開催された主要国首脳会議だ。美しい地球を守るために各国の首脳たちが意見を交わした会議で利用された椅子やテーブル、会場や会見場所が再現されており、国際舞台の様子を体感できる。

日本で3番目に大きいカルデラ湖である洞爺湖畔を散策すると、湖の中に約5万年前の噴火で形成された溶岩ドーム群からなる美しい中島が見える。中島には遊覧船で上陸し、そこに生息するエゾシカ等を見ることもできる。
昭和新山と有珠山ロープウェイ
洞爺湖(左)と昭和新山(右)
洞爺湖畔から車で10分ほどの場所に昭和新山がある。昭和新山は、1943(昭和一八)年の噴火活動で麦畑が隆起してできた火山で、現在でも噴煙をたなびかせていて、大地のエネルギーを間近で体感することができる。昭和新山の麓の駐車場からは、有珠山に上る有珠山ロープウェイが運行している。所要は片道約6分で、昭和新山や洞爺湖、中島、噴火湾等を、眼下に立体的に観察することができる。新しくできた展望台Mt. USU TERACE では、洞爺湖と昭和新山の美しく雄大な景色をバックに記念写真が撮れる。反対にある火口原展望台と外輪山遊歩道を登って行くと、内浦湾と1970年代に噴火した際の大きな火口が見渡せる。今回はガイドの方の案内で、有珠山の形成や噴火により形が変わっていく姿について、楽しく学びながら散策ができた。教育旅行で訪問する際も、是非ガイドをつけて見学してほしい。

ロープウェイを降りたあと、敷地内に併設されている昭和新山熊牧場を見学した。北海道にしか生息しない国内最大の陸上生物エゾヒグマが、年齢別のグループで遊んだりくつろいでいる姿を間近に見ることができる。熊用の餌を購入し投げ入れると、手招きして餌を欲しがる熊や、口で上手くキャッチする様子も楽しく観察できる。「人のおり」に入ると、ヒグマを更に近くに見ることができ、今度はその体や爪の大きさ等に驚かされ、襲われたりしたら一溜りもないと恐怖を感じる。北海道の自然やアイヌ文化を学ぶ上で欠かせないヒグマ。本物の姿を見ておくと、イメージが沸いてくるだろう。
ウポポイでアイヌ文化を感じ学ぶ
ウポポイ チセ群
白老町にある、ウポポイ(民族共生象徴空間)を訪問した。ウポポイは、アイヌの歴史・文化を学び伝えるナショナルセンターで、その主要施設には、国立アイヌ民族博物館、国立民族共生公園、慰霊施設がある。敷地に入ると美しいポロト湖と芝生が広がり、博物館や交流体験ホール等の真新しい建物が目に飛び込んでくる。奥には伝統的コタン(集落)が再現されていて、チセ(家屋)群が展示されている。博物館では、アイヌ民族の視点で6つのテーマ展示がされていて、順路はなく自分の興味のあるテーマから見学することが可能だ。交流体験ホールでは、一日4~5回、約20分の伝統芸能が上演されている。アイヌ語での挨拶から始まり、動植物をテーマにした踊りや座り歌等、躍動感のあるものから儀礼的な踊りまで興味深く鑑賞した。演者は若い人たちが多く、アイヌの伝統と文化を紡いでいこうとする意志を感じた。新型コロナ感染拡大時には休止されていたムックリ(口琴)体験やオハウ(アイヌ料理)体験も再開されているので、これらも是非体験してもらい、アイヌ文化を五感を使って学んでほしい。
札幌市内散策と北海道の歴史を学ぶ
札幌市内では大通公園や時計台(旧札幌農学校演武場)、札幌駅、北海道大学等を散策しながら見学した。札幌は、冬の積雪が多いため、歩道を含め道幅が広く設計されているので、とても歩きやすい街だ。主な見学地は徒歩で巡ることができる距離にあるので、グループ行動で見学するのにも適している。北海道大学は、緑豊かなキャンパスの中に森や小川があり、エゾリスが道路を走って渡るのを見かけた。まるで海外の大学のような風景で、生徒達が訪問すればこのような大学で学びたいと思うような素敵な雰囲気だ。

札幌市内から東へ車で約40分、北海道博物館とすぐ近くにある北海道開拓の村を見学した。北海道博物館の総合展示室に入ると、北海道を中心とする北東アジアの衛星写真が床一面にあり、北海道がアジアの中でどのような場所であったかがわかる。また本州と異なる北海道の歴史を、120万年前から辿る展示がある。そして近代に入り、明治政府が北海道の開拓を進めるなかで、アイヌ民族の生活や文化は大きな打撃を受けたものの、アイヌの人びとの歩みが今につながっていることがわかる。学校団体は事前予約で学芸員によるグループレクチャーを受けることができるので、受講した方がより深く見学できるだろう。

北海道開拓の村は、明治から昭和初期にかけて建設された北海道各地の建造物を移築復元・再現した野外博物館。入口の赤い屋根の旧札幌停車場を抜けると、青い空と緑の中に明治・大正期の建物が綺麗に並ぶ市街地が見える。洋風の要素や雪や寒さを踏まえた構造の建物が並び、建物から北海道開拓時代の移住の背景や歴史を学ぶことができる。ボランティアガイドが多数いるので、地元の人と触れあう機会も兼ねて、説明をしてもらいながら見学してほしい。ここに展示されているのは、当時の開拓を象徴する建物で、開拓の村はその名の通り開拓者目線、移住成功者目線で展示されているので、アイヌ民族に関するものはないそうだ。

ウポポイ、北海道博物館、開拓の村、この3つの施設を、それぞれの観点を踏まえながら複合的に見ることで、北海道の歴史と文化を深く、そして立体的に学ぶことができるだろう。行程を工夫して、是非3施設すべてを見学していただきたい。
北海道博物館の展示
北海道開拓の村 明治時代の派出所
北海道の新名所、北海道ボールパークFビレッジ
エスコンフィールドHOKKAIDO
2023年に開業した北広島市の「北海道ボールパークFビレッジ」。その中にある北海道日本ハムファイターズの本拠地「エスコンフィールドHOKKAIDO」に入ると、入口や通路が広く造られ解放感があり、グラウンドの緑と青い空のコントラストが美しい。世界最大級の大型スクリーンもあり、テレビで見るアメリカの球場のようだった。Fビレッジは野球観戦だけの施設ではなく、地域社会の活性化や社会貢献を目的とした「共同創造空間」としても設計されていて、試合開催日以外も解放されている。見学した日も試合は無かったが、多くのお客さんが買い物や飲食等を楽しんでいて、とても賑わっていた。教育旅行向けには、試合観戦以外にも、ファイターズガールが案内するスタジアムガイドツアーや、元選手や街づくりに関わる人の講話プログラムがあり、野球ファン以外でも興味を引く内容だ。

今回の視察の最後に、新千歳空港から車で10分のところにあるサケのふるさと千歳水族館を訪れた。千歳水族館は千歳川の傍に建てられていて、最大の見所は、本物の川の中で泳いでいる魚をガラス越しに観察できることだ。また、北海道最大の淡水水槽があり、幻の魚イトウやサケの仲間を観察することができる。講話や体験メニューも充実していて、特に人気があるのは、春季に行われるサケの稚魚の放流だそうだ。予約すれば学校団体には、柔軟に対応してくれる。

今回の視察では、新しい施設や様々な教育旅行向けプログラム・素材に触れることができ、北海道での体験を通じて多くの学びが可能なことが改めて感じられた。(公社)北海道観光振興機構では、北海道での教育旅行実施に向け、様々な支援事業や相談に応じてくれる。興味を持った方は是非ご検討いただきたい。

【問い合せ先】
(公社)北海道観光振興機構
札幌市中央区北3条西7丁目1番1 緑苑ビル1F
TEL:011―231―0941
URL:http://hokkaido-syuryo.com/
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