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月刊「教育旅行」掲載記事ブログ

視察レポート

ユネスコエコパーク「志賀高原」での環境学習・SDGsプログラム(2024年4月号掲載)

2024-04-08
文・写真=(公財)日本修学旅行協会 事務局長 高野 満博
月刊「教育旅行」2024年4月号掲載
※本記事中の情報は執筆当時のもので、その後変更されている場合があります。
最新情報は問い合せ先にご照会ください。


昨秋の紅葉シーズンに、長野県学習旅行誘致推進協議会 山ノ内町支部にお招きいただき、志賀高原を視察する機会を得た。

山ノ内町は、志賀高原、北志賀高原、湯田中渋温泉郷の3つのエリアで構成されていて、そのうちの志賀高原及び北志賀高原では、昭和四十年代からスキー教育旅行の受入れを始め、修学旅行やスキー教室で多数の生徒を受け入れてきた実績がある。

長野へは新幹線で移動した。東京駅から長野駅までは新幹線で約1時間半、長野駅から貸切バスで、約70分で志賀高原に着くことができる。10月だったが、道路の両端のりんご畑はネットで囲まれておらず、赤いリンゴがたわわに実っている光景を、きれいに見ることができた。普段、このような光景を見ることはなく、それだけでも都市部に住む子ども達には価値ある体験となるだろう。
世界最大級のロープウェイのバックヤードツアー
ロープウェイの車輪
志賀高原は、新潟県・長野県・群馬県にまたがる上信越高原国立公園の中心に位置し、標高1300~2300mという高地にある。北志賀高原の竜王スキーパークには、166名乗りの世界最大級のロープウェイがあり、標高980mの山麓駅から1770mの山頂駅まで約10分で到着する。山頂駅には、生徒の昼食などでも使える「SORA terrace cafe」があり、そこから雄大な北アルプスの景色が一望できる。また、タイミングがよければ、発生率65%という雲海を眼下に見ることができる絶景スポットだ。

ここには非常に珍しいロープウェイのバックヤードツアー(所要時間70~80分)がある。ロープウェイを動かす機械や、ロープウェイを吊るす車輪の部分などを近くで見ることができ、解説を聴きながらその仕組みを学ぶことができる貴重な体験だ。

北志賀から奥志賀までは、約10km程度のなだらかなハイキングコースがあり、ロープウェイを利用してハイキングをする学校も多い。また、北志賀は積雪が多く水が潤沢なエリアのため、生活用水は地下水を使っているそうだ。
山頂駅からの風景
SORA terrace cafe
ユネスコエコパーク「志賀高原」
自然探勝コースの木道
志賀高原は、ユネスコエコパークと上信越高原国立公園の両方に認定されている、日本でも数少ない貴重なエリアだ。ユネスコエコパーク(生物圏保存地域)は、生物多様性の保護を目的に、「ユネスコ人間と生物圏(MAB)」計画の一環として、豊かな生態系を有し、地域の自然資源を活用した持続可能な経済活動を進めるモデル地域を指定するもので、1976年に始まった。

ユネスコ世界自然遺産が、顕著な普遍的価値を有する自然を厳格に保護することを主目的とするのに対し、ユネスコエコパークは自然保護と地域の人々の生活(人間の干渉を含む生態系の保全と経済社会活動)とが両立した持続的な発展を目指しているのが特徴で、3つの機能(保全機能、経済と社会の発展、学術的研究支援)とゾーニング(核心地域、緩衝地域、移行地域の3地域要件)等が指定されている。国内のユネスコエコパークは現在10地域あり、「志賀高原」は、1980年に他の4地域と共に日本で初めて登録された。

志賀高原は、1960年代以降にスキー場を中心に急速な開発が進められてきたが、その一方で核心地域はほとんど人為の影響が無く、原生林が保全されている。緩衝地域には100近いホテルが存在するが、地域の人々の努力により、亜高山性針葉樹林や美しい湖沼や高層湿原が保全されている。
環境学習とSDGsプログラム
志賀高原ガイド組合では、このユネスコエコパークを利用した環境学習やSDGsプログラムを展開している。具体的には、スキー開発に伴う弊害としてのイワナの減少と地域の人々の対策、遊歩道の整備による環境負荷の軽減や自然との共存を理解するプログラムなどだ。現在は、閉鎖したスキーコースに植林をするなど、環境に配慮し、地形を活かしたスキー場の設営をしているそうだ。

プログラムは、事前に現地またはオンラインで講義を行い、現地では学習テーマに応じて専門のガイドが引率し、トレッキングや散策を行う。その後、自分が見てきたこと、感じたこと、発見したことなどを整理し、 ガイドとの質疑応答、自分たちでのグループディスカッションなどを通じて、レポートや感想文にまとめていく。学校の要望に応じて、ディスカッションなどは学校に戻ってからすることもでき、現地とはオンラインを通じて交流することも可能だ。プログラム修了者は、記念のピンバッジと修了証書がもらえる。

プログラムについては、事前に学校にヒアリングの上、構成を提案してもらえる。例えば、トレッキングは時間やレベルに応じて様々なコース設定ができ、学習内容もどのような力を育みたいか、どのような気づきをさせたいかに応じて組み立ててくれる。また近年はスノーシューでのトレッキングなど、冬場の希望も増えてきているそうだ。雪上のため、遊歩道の無い原生林の中にも入ることができ、グリーン期には行けない場所に行けることが冬場の醍醐味だ。大吹雪でもなければ実施可能で、夏場より催行率は高いとのこと。

今回は、木戸池から田ノ原湿原を通り、信州大学自然教育園まで、1時間弱の自然探勝コースを散策した。交通の便もよく、バス等を活用すればレベルに応じたコース設定が可能だ。また、ユネスコエコパークの「核心地域」と呼ばれるエリアの近くまで簡単に行くことができ、岩の上に生える「根上り(象さんの木)」という木や、様々な苔類を見ることができる。
自然探勝コースでは岩の上に生えるさまざまな木々などを見ることができる
「象さんの木」
志賀高原ゴールデンライン
紅葉がきれいな蓮池のほとりにある志賀高原山の駅からは、志賀高原ゴールデンラインという3本のゴンドラを使って、標高2000mの東館山(ひがしたてやま)山頂駅まで一気に行ける。途中には長野オリンピックやワールドカップで使用された急斜面を見ることができ、あのような場所を猛スピードで滑降するのかと驚かされる。山頂駅を降りると東館山高山植物園が広がっていて、可憐な高山植物の花々を見ることができる。また展望台からは北アルプスの山々が連なる素晴らしい景色が広がり、歩いて登らなくても簡単に雄大な景色を見ることができる。
ゴールデンラインのゴンドラ
東館山山頂からの風景
善光寺
志賀高原は、大規模校でも受入れ可能な大型宿泊施設が多くあり、ホールなどの施設も近接している。大人数の教育旅行を受け入れる宿が減少傾向にある現在では、貴重な地域であろう。特に6・7・9・10月は受入れに余裕があり、一館貸切やフロア貸切など、柔軟に応じてくれる宿が多くある。

長野駅から志賀高原の途中には、グループ行動もしやすい善光寺や、栗で有名な小布施(おぶせ)などがあり、行程に組み込むことができる。環境学習やSDGsをテーマとした探究学習に、志賀高原を活用していただきたい。

【問い合せ先】
(一社)長野県観光機構
長野県長野市中御所岡田町131―4
 ホテル信濃路3F
TEL:026―219―5274
長野県学習旅行誘致協議会山ノ内支部
(幹事:志賀一井ホテル)
長野県下高井郡山ノ内町大字平穏7149
TEL:0269―34―3711
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