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掲載記事・視察レポート

視察レポート

北海道・道央のSDGs学習プログラム(2025年2月号掲載)

2025-02-05
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文・写真=(公財)日本修学旅行協会 参与 松田 憲一
月刊「教育旅行」2025年2月号掲載
※本記事中の情報は執筆当時のもので、その後変更されている場合があります。
最新情報は問い合せ先にご照会ください。


札幌や新千歳空港のある道央エリアは、火山、湖、温泉、スキー場などの観光資源に恵まれ、多様な産業や独自の歴史・文化など、修学旅行の学びのコンテンツが多くある。昨年10月初め、(公社)北海道観光機構が主催した「北海道(道央圏)教育旅行現地視察研修会」に参加する機会をいただいた。共生、防災、自然、環境など、SDGsと関連した学習プログラムを紹介する。
北海道ボールパークFビレッジのまちづくりを見る
エスコンフィールド北海道 外観
札幌と新千歳空港の中間に位置する北広島市に2023年3月、北海道ボールパークFビレッジが誕生した。32ヘクタールの広大な敷地に、プロ野球・北海道日本ハムファイターズの新球場を核として、周辺に人工池、公園、子どもの遊び場、アクティビティ施設、ショップ、レストラン、宿泊施設などが集まっている。Fビレッジが目指すのは「共同創造空間」で、産官学のパートナーシップにより、野球を観戦するためだけでなく、あらゆる世代が集い交流する空間、コミュニティ育成の場であり、地域社会の活性化や社会への貢献につながる持続可能なまちづくりだ。現在60%ほどの完成率で、新駅やホテル、大学などの整備が進められている。

野球場のエスコンフィールド北海道は、従来の球場のイメージが変わるスタジアムだ。外観は巨大な三角屋根の体育館のようで、南側は一面ガラス張り、太陽光を取り入れて芝の育成を促すとのこと。この日、試合は無く自由に見学できた。球場内はバリアフリーで、広いコンコースが360度スタジアム内を回遊していて、どこからでも試合を楽しめる。天然芝の球場では日本初の開閉式大屋根、2か所ある世界最大級の大型ビジョン、日本初の野球アミューズメントエリア、ラーメンエリアやフードエリア、天然温泉とサウナ施設など、多くの工夫と斬新な施設に驚く。野球観戦だけでなく、試合のない日にはガイドの案内でグラウンドや通常は入れないエリアを見学する「スタジアムツアー」の体験ができる。また、スポーツビジネスや元プロ野球選手によるキャリア教育をテーマにした「講話」のプログラムもある。
アドベンチャーパーク
エスコンフィールドと併せて活用したいのがFビレッジ内の農業学習施設クボタ アグリフロントだ。土を使わない最先端の作物栽培農業見学(約30分)や、チームで取り組む農業経営のシミュレーションゲーム体験(約80分)を通して、食と農業の課題や未来について学べる。地上8mの空中アスレチックや、チームビルディングが体験できるアドベンチャーパークと組み合わせて活用したい。

Fビレッジは、新千歳空港から45分という利点があり、日程の1日目または最終日のプログラムとしてもよいだろう。
ダイナックス沼ノ端アイスアリーナの体験プログラム
ダイナックス沼ノ端アイスアリーナ
氷都と呼ばれる苫小牧市は、スケートの盛んなまちだ。雪が少ない気候のため、市民は冬のレジャーとしてスケートを楽しむ。学校の校庭がスケートリンクになったり、体育にはスケートの授業がある。苫小牧市にあるダイナックス沼ノ端(ぬまのはた)アイスアリーナは、スケートリンクが60m×28m、観客席は236席あり、アイスホッケーにも利用されている。視察当日は小学生のクラブチームの試合中で、小学生とは思えないスピードと迫力あるプレーが見られた。

修学旅行のプログラムとしては、スケート体験とカーリング体験を受け入れている。体験時間はいずれも60分、90分、120分から選べる。スケート体験は、最大80名の受入れで、アイスホッケーのミニ体験もある。カーリング体験は、大学のカーリング部の学生が指導し、基本動作の練習とミニゲームを体験する。受入人数は最大40名。カーリング体験は、冬季オリンピックでの日本チームの活躍もあり人気のプログラムで、修学旅行で実際に体験した学校によると、生徒が大変興味をもち、大いに盛り上がったとのことだ。
ウポポイ(民族共生象徴空間)で学ぶアイヌ文化と共生社会
ウポポイ 国立アイヌ民族博物館の展示
白老町にあるウポポイ(民族共生象徴空間)を訪れた。ウポポイとはアイヌ語で「(おおぜいで)歌うこと」を意味する愛称だ。アイヌ文化を振興・発展させる拠点として、先住民族の尊厳を尊重し、差別のない多様で豊かな文化を持つ活力ある社会を築いていくための象徴として2020年にオープンした。

国立アイヌ民族博物館は、先住民族アイヌを主題として、アイヌのことばや、歴史、文化を伝え未来につなげていくことを目的にした日本初の博物館。入館すると職員から「イランカラプテ(こんにちは)」と挨拶がある。基本展示室では「ことば」「世界」「くらし」「歴史」「しごと」「交流」の6つのテーマが全て「私たちの」というアイヌ民族の視点で紹介されている。解説はアイヌ語で表示され、日本語の意味がついている。見学にあたっては、アイヌ民族の歴史についての映像とプレゼンテーション、またはレクチャー(20分)の後に展示室の自由見学(45分)という学校団体向けのプログラムが利用できる。ワークシートや音声ガイドを活用し、じっくり見学してほしい施設だ。

ウポポイ 伝統的コタン
続いて、チセ(アイヌの住居)が再現された伝統的コタンのエリアを見学した。一部のチセは内部が公開され、アイヌの暮らしぶりが体感できるほか、歌や踊りなど伝承文化の解説、口承文芸の実演、アイヌ文化の紙芝居、アイヌ語学習などのプログラムがある。

最後に体験交流ホールでアイヌの伝統的な歌や古式舞踊、ムックリ(口琴)の演奏などの伝統芸能を鑑賞した。最新の映像技術の演出も含め、アイヌの人々の世界観を体感できる。ホールは約300名まで入場でき、上演時間は20分。ウポポイの見学に当たっては、博物館作成の動画教材も参考に、事前に十分な学習をしてから臨みたい。
ジオパーク有珠山で共生と防災を学ぶ
有珠山火口原展望台
有珠山(うすざん)のある地域一帯は、「洞爺湖(とうやこ)有珠山ジオパーク」としてユネスコ世界ジオパークに認定されている。有珠山が誕生したのはおよそ2万年前、その後7千年間は噴火がなく、1663年に再び噴火した後、19世紀までに5回、20世紀に入ってからは4回もの噴火を繰り返してきた。直近の噴火は平成一二(2000)年、山麓が噴火して熱泥流が町に流入したが、事前避難が成功し犠牲者はいなかった。

有珠山の防災学習プログラムを紹介しよう。1クラスに1名、洞爺湖有珠山火山マイスターの案内ガイドがつく。スタートは有珠山ロープウェイ山麓駅。96人乗りのゴンドラで6分、標高562mの山頂駅に到着する。洞爺湖展望台は絶景の大パノラマを望むビューポイントだ。眼下の赤茶けた山は、1944年の有珠山の噴火から2年余りで山麓の畑が隆起し誕生した昭和新山で、今も溶岩ドームから水蒸気が上がり、大地のエネルギーを感じる。左遠方には、約11万年前の巨大噴火でくぼみに水が溜まってできたカルデラ湖の洞爺湖が見える。ガイドが昭和新山、有珠山、洞爺湖の成り立ちを分かりやすく説明してくれる。荒々しい山肌を見ながら散策路を上がると火口原展望台だ。1977年の山頂大噴火で誕生し今も水蒸気の上がる銀沼火口が眼前に見える。元の道を戻ってロープウェイで下山、所要時間は約1時間15分。変動する大地を体感し、今後も確実に噴火を繰り返すとされる有珠山を知るとともに、火山とその地域に暮らす人々との共生を学び、防災減災を考えたい。
ブナ北限の里・黒松内の体験学習
歌才ブナ林の散策路
黒松内(くろまつない)は、渡島(おしま)半島の付け根、太平洋と日本海に挟まれた位置にあり、森、湿原、川など豊かな自然環境に恵まれた、生物多様性の保全に取り組んでいる町だ。また、ブナの北限の里として、ブナ林を保全し活用する取り組みなど、自然を活かしたまちづくりを推進している。落葉広葉樹の代表であるブナは、主に東日本に広く分布しているが、黒松内が自生の北限で、中でも天然記念物の「歌才(うたさい)ブナ林(りん)」は、開拓による伐採の危機を乗り越えてきた貴重な自然林だ。

町内には2箇所のプログラム提供施設があり、豊かな自然素材を活かした体験活動を支援してくれる。「黒松内町ブナセンター」はブナの博物館施設で、ブナに関する学習、木工、陶芸体験、ブナ林散策などができ、学校の学習テーマに合わせてプログラム内容を無料で提案、対応している。「ブナの森自然学校」は、体験活動の指導やサポートをするNPOの宿泊体験施設で、歌才ブナ林散策、川や海の生き物探し、フィッシング、火起こしと棒パン作りなど、多様なプログラムが実施できる。黒松内では、体験活動のみならず、未来に向けての環境保全、人と自然の共生、生き物との共存などの現状と課題など学ぶことは多い。

ルスツリゾートの体験プログラム
ルスツリゾート ルスツファームの羊
新千歳空港、札幌からともに90分、留寿都(るすつ)村にあるルスツリゾートは、北海道有数の広さと設備のある大型リゾート施設だ。羊蹄山(ようていざん)、洞爺湖、有珠山などに近く、ラフティングをはじめとしてアウトドアの活動拠点として活用する学校も多い。リゾート内の施設も充実していて、様々な体験が移動せずに実施できる。ホテルの目の前は広いゲレンデで、初・中級者向けのゲレンデやコースが豊富にあり、冬のスキー修
学旅行には最適だ。宿泊施設はホテルやロッジなどが4棟あり、大規模校にも十分対応できる室数のほか、アリーナやコンベンションホール、大小の会議室・宴会場も様々に活用できる。

視察当日、滞在していた高校(8クラス)は、ラフティング、カナディアンカヌー、マウンテンバイク、乗馬教室、渓流えさ釣り、ネイチャーツアーなどのアウトドアのアクティビティと、レザーワーク、ガラス工芸、クラフト作り、果物ジャム作り、生キャラメル作りなどのインドアのプログラムを、4クラスずつに分かれて午前と午後で交代する選択体験を実施していた。

〈宿泊情報〉洞爺湖万世閣ホテルレイクサイドテラス
洞爺湖温泉にあるリゾートホテルで、洞爺湖周辺での活動の拠点として便利だ。3館ある客室は和洋併せて243室、大規模校の受入れにも対応でき、1校1館での利用ができる。湖畔にあるので客室や温泉からは目の前に広がる洞爺湖と羊蹄山の絶景を楽しめる。

【問い合せ先】
(公社)北海道観光機構
札幌市中央区北3条西7丁目1番地 緑苑ビル1F
TEL:011―231―0941

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