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掲載記事・視察レポート

視察レポート

LCCを利用した旭川から成田への修学旅行の可能性(2025年3月号掲載)

2025-03-05
文・写真=(公財)日本修学旅行協会 編集部 中出 三千代
月刊「教育旅行」2025年3月号掲載
※本記事中の情報は執筆当時のもので、その後変更されている場合があります。
最新情報は問い合せ先にご照会ください。


昨年11月に、旭川空港利用拡大期成会(旭川市地域振興部交通空港課)が主催する「LCCを利用した修学旅行の実施検討に係るモニターツアー」に同行させていただいた(取材は成田周辺のみ)。2023年12月に、ジェットスター・ジャパンの旭川―東京(成田)路線が開設され、旭川空港を発着するLCCとして初の定期運航となった。これを機に、従来、道内(道南方面)中心だった旭川市立中学校の修学旅行を、この路線を利用して関東方面で実施する可能性を探るべく企画されたのがこのモニターツアーで、4名の市立中学校の先生方が参加された(◆は先生方のコメント)。
ジェットスター・旭川~成田便の利用について
ジェットスター・ジャパン社での意見交換の様子
ジェットスター・ジャパン本社(以下、JS社)を訪問して、団体販売担当者と旭川~成田便を利用した修学旅行に関する意見交換を行った。

まず、先生方の懸念の一つであった安全については、JS社を含めたカンタス航空グループは、これまで一度も航空死亡事故を起こしたことがないという。またJS社は、オーストラリアへの修学旅行など学生団体の取り扱い実績も多く、団体専用の窓口もあるため、各種対応について他のキャリアとほぼ同様で、先生方はそれらの点について安心感を持たれたようだ。現状の機材では1便180人まで搭乗でき、旭川市立中学校の9割以上は定期便でカバーできるという点も、実施可能性の高さにつながる。

今後の運用上の課題として、旭川~成田便は1日1便のため、悪天候等での欠航対応は札幌(新千歳)便への振り替えになる点がある。また、受託手荷物は20kgまでは無料だが、中学生が各自でタグを発行して荷物を預けることには負担感があるという声もあった。

現行の旭川~成田便のダイヤは往復とも午前便のため、モデルコースとしては、往路は旭川~成田便、復路は成田~新千歳便の利用が基本となる。また、成田到着が13時台という点も時間効率の面からは課題となる。それらを解決するにはチャーター便の利用が考えられ、旭川~成田往復で時間設定も柔軟になるが、追加料金がかかることから費用面でやや厳しい、複数の学校で予定を合わせた利用ができないか、という議論もあった。

◆ 話を聞いてまず安心した。安全面がよく、欠航の代替措置もしっかりと考えられている。
◆ 社員の方々が親身に説明をしてくれており、航空会社としての風土の良さを感じた。
◆ チャーター便は、他校と連携し、修学旅行日を連続させることによって(追加料金を)回避できるようであるが、現実的ではない。まずは、旭川発―札幌着という形にして、実施していくしかないのではないか。
成田エリアの見学・体験について
ランプセントラルタワーからの景色
■成田空港見学ツアー

成田空港制限区域を巡る見学ツアーでまず訪れたのは、空港のほぼ中央にある「ランプセントラルタワー」。ランプセントラルタワーは、広大な空港の安全を確保するため、空路と滑走路との離着陸を管理する国土交通省航空局の管制塔と役割を分担し、滑走路とエプロン(駐機所)との航空機の移動をコントロールする民間(成田国際空港会社)の管制塔。2020年に運用開始された高さ約60mのタワーの3階に展望デッキがある。

その後、バスで制限区域内を巡りながら、車窓から空港内の施設や設備、そしてそこで様々な業務に携わる人々の働く様子を見学した。今回、通常のガイドさんに加え、空港でグランドハンドリング業務を実際に行っている(株)JBSのスタッフも同乗して、航空機の移動や貨物・手荷物の移動に使う特殊車両や、スタッフの日常業務などについても説明してもらった。
滑走路に離着陸する航空機が間近に見られる
荷物を積むコンテナ車
A滑走路からほど近い場所でバスを降りて滑走路を見学するのが、このツアーのハイライトとなる。滑走路を背に記念写真を撮れる絶好のフォトスポットでもある。

今回のツアーでは特別に、グランドハンドリング業務で使用する特殊車両などの見学・乗車体験もすることができた。また、案内していただいたスタッフから、安全第一で業務にあたる配慮や、空港で働くことのやりがいなども聞かせていただくことができた。

(株)グリーンポート・エージェンシーが窓口となる成田空港見学ツアーは、所要時間90~120分、受入人数は最大80名(バス1台40名×2)。空港から車で約10分の芝山町にある、(株)JBSが運営する「空飛ぶ学び舎ラボ」では、成田空港で実際に働くスタッフから話を聴くことができる航空講座やキャリア講座、隣接する航空科学博物館の見学などがあり、空港ツアーとローテーションで組み合わせることもできる。

◆ 中学生のイメージとして、空港関係の仕事は、パイロットとCA以外は、ほとんど持っていないのではないか。既存のイメージを拡大させるキャリア学習として有効である。
◆ ひっきりなしに離着陸する飛行機の迫力は圧巻で、時を忘れてしまうほど素晴らしかった。貨物飛行機には窓がないなど、ガイドによる説明も重要。生徒にとって刺激になる。
◆ 最大80人となると、ご提示いただいたプログラムをアレンジすることが必要になってくる。例えば、ツアールートを周遊する組と体験プログラムを行う組に分けるとよいのではないか。
車両工場見学
■京成電鉄宗吾車両基地見学

成田空港と都心を結ぶ私鉄・京成電鉄が所有するすべての車両の点検・整備を行うのが、宗吾車両基地だ。宗吾車両基地の見学内容は、(1) 車両工場内見学、(2) 実際の車両内での体験、(3) 展示車両見学で、(1)と(2)+(3)それぞれ約40分を1班30名の2班に分けてローテーションする約2時間のコースとなる。この見学ツアーは、通常は沿線への地域貢献として実施されているもので、今回は関係者が一緒に検討を進め、修学旅行向けにアレンジしてできたプログラムだそうだ。

車両工場はコの字型になっていて、入場した車両は一方通行で工場内を移動し、整備が終わった車両が反対側から出場するという流れ。最初に、台車と車体に分解し、それぞれの置き場に移動する。台車はさらに車輪や駆動装置などの部品を外し、それぞれ担当の持ち場で点検・整備を行う。「安全・清潔・快適な」車両空間の提供が車両部の使命であり、そのために細心の注意と高い技術で取り組まれている様子がわかる。
車内アナウンス体験
基地に停まっている車両を使った体験ができるのが、この車両基地見学での人気のポイントだ。普段は入ることが許されない乗務員室に入室し、マイクを使った車内アナウンス体験と扉の開閉体験ができる。実際に運行されている車両を使っているので、先生方にとっても楽しい体験になったようだ。扉の開閉で配慮していることや、車内の非常ボタンの案内などもあり、乗務員の立場から、普段電車に乗るときに注意したいポイントも教えてくれる。

基地内には、京成電鉄の115年の歴史を担ってきた車両・台車が保存展示されている。昭和初期の車両や初代・2代目スカイライナーなどがあり、列車のデザインの変遷もわかる。

◆ 工場見学や電車の乗車体験など短い時間で裏方の仕事を見ることができ、地元では体験できない素晴らしいキャリア教育であった。
◆旭川周辺の生徒の中には電車に乗ったことがない子もいると思うので、自主研修で電車に乗る工夫をした上で、京成電鉄に行けるとよりよいと感じた。または、2年生の宿泊研修の時に地下鉄に乗る経験があるといい。
◆ 乗り物や機械に興味がない生徒がどのように感じるか疑問が残った。例えば選択性の「キャリア学習の時間」として120分設定し、複数設定したコースの中に入れるというのはできるのではないか。
成田山新勝寺 総門
■成田山新勝寺と参道散策

成田山新勝寺は、平安時代の僧・寛朝(かんちょう)が不動明王とともに関東に下り、護摩(ごま)を焚いて平(たいらの)将門(まさかど)の乱の終息を祈願したことに由来する、「成田のお不動さん」と親しまれている関東を代表する古刹だ。

成田山新勝寺では、坐禅や写経、法話など、団体での体験修行もできる。坐禅は約40分、写経は文字数によって約30~90分で、組み合わせて行う場合は、時間を調整することもできる。最大300名まで一度に体験でき、大人数の受入れも問題ない。
江戸情緒あふれる表参道
新勝寺総門からJR成田駅・京成成田駅まで約800m伸びる表参道には、江戸時代の面影を残す情緒あふれる建物が並ぶ。土産物店や飲食店が数多くあり、班別自主行動を行うのに適切なエリアだ。歩道は整備されているが、車道は車の通行も多いので、新勝寺での体験と分散させて少人数で行動させるなど、自由行動時には注意させたいという声もあった。

◆ 坐禅などは生徒の経験財産であり、やったことがないからこそ体験させたい。逆に動機付けも必要。生徒自ら体験してみたくなる仕掛けや工夫について考えなければならない。
◆ 300人を一度に収容できるのは、大きな魅力である。参道では、旭川とは異なった文化的情緒を堪能しながらショッピングしたり、おいしいものを食べたりすることができ、生徒も興味を惹かれると思う。
◆ 新勝寺の体験はいわば宗教行為体験になってしまうので、一定の配慮が必要となってくる。選択制のプログラムとするのがよい。
今回のツアーを総括して
ツアーの最後に振り返りの会議を行い、今回のツアーを踏まえて、LCCを活用した修学旅行の可能性について議論を深めた。

LCCの利用については、安全面・価格面では問題なく、搭乗すること自体が生徒にとって体験の一つになるという前向きな意見が多かった。一方で、生徒による受託手荷物の手続きには負担感があるとの指摘もあった。現行1日1便の旭川~成田便では、2泊3日の修学旅行で往復利用するには効率がよくないものの、チャーター便ではなく定期便の利用により行程を工夫することが、最も実現可能性が高いという方向性でまとまった。

成田空港周辺の見学・体験については、特に成田空港見学ツアーでのキャリア学習の要素に大変魅力を感じた、という声を多く聞いた。また、普段目にすることのない鉄道の裏方を見学体験できる京成電鉄宗吾車両基地、旭川にない文化に触れられる成田山新勝寺ともに、参加者から高評価であったが、生徒ひとりひとりの指向や事情を考慮すると、全体行程ではなく選択制のコースとすることが適切との考えでまとまった。旭川市の中学校の修学旅行は、2日目を終日班別自主研修に当てているので、それを成田での行動とどう組み合わせるか、工夫が必要なところだろうという声もあった。

旭川市としては、今回のツアーで出た課題や意見を市立中学校の先生方と共有しながら、3年後の修学旅行実施を目標に、学校側と旅行会社との橋渡しを進めていくとのことだ。

最後に、先生方のコメントをいくつか紹介して、まとめとしたい。

◆ 子どもの興味・関心の観点から、旭川から飛行機を利用して成田や東京に向かう修学旅行は十分可能であると感じた。
◆ 今回のコースは教員目線、特にキャリア学習の面で教育的要素を十分に満たしている。あとは生徒側の目線でいかに「楽しそう!」に見せられるかが課題。
◆ 今後、旅行費用は高くなっていくことが考えられるので、実現に向けて費用に見合った価値を創造できるよう、行政・旅行会社・学校現場の連携が重要になってくる。
◆ 修学旅行を検討するときに、過去の資料を旅行会社に渡すことが多い。今回の取り組みを通じて、教員側も新たな情報を得てアップデートが必要だと感じた。
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