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掲載記事・視察レポート

視察レポート

ながの~白馬の自然と松代の歴史遺産に学ぶ教育旅行プログラム~(2025年7月号掲載)

2025-07-05
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文・写真=(公財)日本修学旅行協会 理事長 竹内 秀一
月刊「教育旅行」2025年7月号掲載
※本記事中の情報は執筆当時のもので、その後変更されている場合があります。
最新情報は問い合せ先にご照会ください。

学校には、夏の合宿や冬のスキー教室で馴染みがある長野だが、中学校や高校の修学旅行がピークを迎える5・6月のグリーンシーズン、10・11月の紅葉のシーズンは、快適な気候のもと、混雑を避け豊かな自然の中で活動するには絶好のエリアだ。5月の中旬、長野県学習旅行誘致推進協議会の計らいで、長野県白馬村と松代町の教育旅行プログラムを視察させていただいた。
白馬の自然に学ぶ体験プログラム
八方池の絶景
SDGsへの取り組みを学ぶ/白馬八方尾根スキー場

2020年にゼロカーボンシティを宣言した白馬村では、昨年策定されたロードマップに基づき、村をあげて環境問題に取り組んでいる。

長野駅から車で1時間余り、外国人スキー客の急増で注目される白馬八方尾根スキー場では、リフトや降雪機の運転に必要とされる大量の電力のほとんどを、県内の小水力発電や地熱発電による再生可能エネルギーで賄っている。また、温泉やレストランなどでも、太陽光発電が活用されている。さらに、八方尾根は、土壌の大部分が植物が育ちにくい蛇紋岩(じゃもんがん)質であるため、本来ならより高い山でしか生育しないはずの高山植物が見られるが、それらや固有種の保護など自然環境保全の活動も行われている。

白馬八方尾根スキー場では、このような取り組みを、レクチャーとフィールドワークを通して学び・体感するプログラムとして提供している。

まず、麓からゴンドラリフトに乗って標高1400mのうさぎ平テラスに向かう。そこで、八方尾根で進められている環境保全活動について30分ほどのレクチャーを受講する。その後、標高2060mの八方池まで、SDGsポイントガイドの説明を聴きながらフィールドワーク。往復180分、雪の残る山々を望む絶景の中、レクチャーの内容が実感できる山歩きだ。そして、再びうさぎテラスに戻り、各自が学んだことをディスカッションする。ゴンドラで麓に着くまで、全体で4時間30分。自然体験を通して学ぶ本格的なプログラムとなっている。

事後学習にも、意見交換などでサポートしてもらえるとのこと。SDGsをテーマとする探究学習に最適なプログラムとして、ぜひ学校におすすめしたい。
空中アスレチックのエレメント
仲間との絆を深めるアクティビティ/白馬EXアドベンチャー

八方尾根スキー場から車で10分ほどの森の中に、高いところで7~8mはある空中アスレチックの施設が設けられている。そこが白馬EXアドベンチャーの体験エリアだ。ここには、教育旅行向けの「冒険教育プログラム」がある。

プログラムは、「空中アスレチック&チームビルディング」と「リバーラフティング」の2つから構成されていて、それぞれの体験時間はともに約3時間。2つを組み合わせて実施することもできる。

空中アスレチック(ハイエレメント)は、日常ではあまり経験しない高所で各種のエレメントをクリアしていくアスレチック。地上8mからスタートし、数々の課題に挑戦していく第1コースと地上からスタートするとすぐに、揺れる丸太を渡らなければならない第2コースがあり、両方を体験することができる。どちらもヘルメットと専用のハーネス(命綱)をつけて行うので安全性には問題がない。ゴールにたどり着いたときの達成感と仲間の応援が自分の力になることの実感を得ることができるアクティビティだ。
ジャイアントシーソー
チームビルディング(ローエレメント)は、10~20人のチームを作り、全員でバランスをとるジャイアントシーソーや、全員が一つのフラフープを人差し指で支え、そのまま一定の時間内に地面におろすヘリウムフラフープなどのゲームに挑戦する。それぞれのゲームを、インストラクターと対話しながら行っていくが、ゲーム終了後には必ず振り返りの時間が用意されている。生徒たちは、こうした活動を通して、互いに協力することや会話することの大切さを学ぶことになる。

リバーラフティングは、近くを流れる姫川をゴムボートに乗って下るアクティビティ。雪解け水で水量豊富な川は、急流もあれば緩流もあり、難関の岩場もある。ベテランガイドの指示に従って難所を乗り越えていく爽快感は抜群だ。ゴールした後は温泉に入って温まる。事前の安全講習や温泉へのバスの送迎も含むプログラムになっているので、安心して行程に組み込むことができる体験活動だ。
ヤッホー!スウィング
山頂テラスで北アルプスを一望/白馬岩岳マウンテンハーバー

白馬EXアドベンチャーから車で約10分。岩岳の麓からリニューアルされたばかりのゴンドラに乗り、標高1289mの岩岳山頂に向かう。山頂まではおよそ7分。ゴンドラは4面がガラス張りで、360度の景観を望むことができる。

山頂の岩岳マウンテンハーバーにはレストランやニューヨーク発のベーカリーもあり、清涼な空気の中、テラスでは北アルプスの山々を眺めながらおいしく食事ができる。ここで大人気なのが「ヤッホー!スウィング」という大型ブランコ。ブランコの前は北アルプスの山々だけなので、これに乗ってスウィングすればその絶景の中に飛び込んでいくような…。アニメ『アルプスの少女ハイジ』の気分を味わえるというのが人気の秘密らしい。

教育旅行では、白馬でのSDGs学習やアクティビティと組み合わせ、昼食場所として利用することをおすすめしたい。
松代の歴史遺産に学ぶプログラム
宝物館の展示
松代藩真田家の歴史から学ぶ/真田宝物館・真田邸・文武学校

江戸時代、元和八(1622)年に信州上田城主・真田信之(のぶゆき)(真田信繁(のぶしげ)=幸村の兄)が松代に転封されて以降、明治時代に至るまで、松代藩十万石は真田家が藩主として治めていた。

長野駅から車でおよそ30分。真田家の居城だった松代城跡近くに、真田邸や藩校・文武学校、真田宝物館などが集まった一画がある。ここは、班別行動で巡ることをおすすめしたい。

▼ 真田宝物館 駐車場そばの真田宝物館から見学して行こう。ここには、昭和の時代に真田家から寄贈された甲冑・刀剣などの武具や大名道具、武田信玄・豊臣秀吉らの書状などが収蔵・展示されている。常設の歴史展示室と大名道具展示室では、このような実物資料やパネルを用いて真田家の歴史や伝来の絵画、調度品などが紹介・展示されている。国の重要文化財「青江の大太刀」が展示されていたなら見逃せない。この大太刀は、長篠の戦いで討ち死にした真田信綱(のぶつな)(信之の叔父)が使っていたものとされ、大太刀に残る刃こぼれからは、合戦の激しさが生々しく感じられる。

着物を着たり甲冑を身に着けたりできるコーナーもあるので体験してみてほしい。なお、ロビーに待機しているボランティアガイドに案内をお願いして館内を見学すれば、歴史をより深く感じることができるだろう。

真田邸での箏体験
▼ 真田邸 松代城の建築物として唯一残されているのが真田邸だ。この邸宅は、真田家九代目藩主・幸教(ゆきのり)が、義母の住まいとして元治元(1622)年に建てた城外御殿で、明治時代以降は伯爵真田家の私宅となっていた。

小規模ながらも、公的な空間「表」と私的な生活空間「裏」とが分かれた主屋や表門などが御殿建築の様式をよく伝えている。「表」と「裏」で造りの異なる建具や釘隠し、襖絵など、細かなところにも目を向けてみると面白い。また、借景を取り入れた庭園は、座敷に座ってゆっくりと眺めてみると、格別に美しく感じられるだろう。7棟ある土蔵のうち、3番土蔵では、切り紙や筝(こと)の体験もできる。ぜひチャレンジしてほしい。

砲術体験ができる柔術所
▼ 文武学校 文武学校は、松代藩の藩校として安政二(1855)年に開校した。現在ある文学所(教室・講堂として使用)や剣術所、柔術所などの建物は、開校当時の姿をほぼ伝えていて、敷地もそのまま。これは、全国に約250校あった藩校のなかでも唯一だという。建物は昭和初期まで小学校の校舎として使用されていたが、現在もここで剣道大会などが行われている。

文武学校で教授されていたのは、漢学や武術のほか、礼法や東洋・西洋の医学、西洋の砲術など多岐にわたるが、特徴的なのは、他の藩校に見られる孔子廟が設けられていないこと。その点から、文武学校は、近代的な学校の先駆けともいわれているそうだ。文学所に入ってすぐの大広間の障子はスクリーンになっていて、ガイダンス映像が影絵のように映し出される。文武学校の歴史がよくわかるので、あらかじめ視ておきたい。

柔術所では砲術体験にチャレンジしたい。体験できるのはスペンサー銃、火縄銃、臼砲(きゅうほう)の3種類。どれもバーチャルだが、実際と同じように撃つことができる。銃は、重さや形、構造が忠実に再現されていて持ってみるとかなり重く、これで的を射抜くのはとても難しいと実感した。

松代象山地下壕
大本営の移転先だった巨大地下壕/松代象山地下壕

文武学校から車なら5分ほどで松代象山(ぞうざん)地下壕に着く。昭和一九(1944)年11月からおよそ9ヶ月という短期間で、舞鶴山を中心に皆神山(みなかみやま)・象山の地下に総延長10km余りの巨大な地下壕が造られた。ここには、本土決戦に備えて、皇居をはじめ陸海軍を統帥する最高機関・大本営や政府諸機関、日本放送協会、中央電話局などを移転することが計画されていた。象山地下壕はその一部で、碁盤の目のように廻らされた壕の総延長は約6km。現在、そのうちの500mほどが見学可能となっている。

地下壕の入り口近くに「朝鮮人犠牲者追悼平和祈念碑」が建てられている。地下壕の建設には、勤労動員された日本人のほか各地の工事現場から移されたり徴用されたりした多くの朝鮮人労働者があたり、付近の旧制中学の生徒たちも作業に従事した。爆薬を使う危険な作業は朝鮮人労働者が行ったというが、どれほどの人々が工事の犠牲になっただろう。

ヘルメットを着け、ガイドさんの案内で地下壕に入る。壕内は、政府機関などが入るだけあって比較的広いが、壁面はデコボコした岩肌がむき出しになっていて突貫工事だったことがわかる。ところどころに、硬い岩盤から抜けず放置されたままの削岩機のロッドが見られた。

短期間にこれほどの壕を造るには、相当に厳しい労働が必要とされたはずだ。たとえ戦場でなくても、戦争に関わる作業で多大な労苦を強いられ、命を落とした多くの人々がいたことを、生徒たちもこの地下壕で実感できるにちがいない。


今回は、自然豊かな白馬と多彩な歴史遺産がある松代という、異なる地域性を持つ二つのエリアを視察した。修学旅行では、冬場のスキーという印象が強い長野県だが、春・秋にも学校のニーズに応えられる様々なプログラムがある。学校には、修学旅行の訪問地として、ぜひ長野県を候補にあげていただきたい。

【問い合せ先】
長野県学習旅行誘致推進協議会 事務局
長野市中御所岡田町131―4 長野県観光機構内
TEL:026―219―5274
e-mail: gakushu@naganotabi.net

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