本文へ移動

掲載記事・視察レポート

視察レポート

地域の歴史・自然・産業を学ぶ山形県での新しい探究学習プログラム(2025年9月号掲載)

2025-09-05
文・写真=(公財)日本修学旅行協会 事務局長 藤川 誠二 

月刊「教育旅行」2025年9月号掲載
※本記事中の情報は執筆当時のもので、その後変更されている場合があります。
最新情報は問い合せ先にご照会ください。

新たな学習指導要領が実施されて以降、修学旅行を「探究的な学習」の場として活用しようとする学校が増えている。修学旅行で訪れる場所を事前学習で調べたり、現地での体験活動を行程に入れたりすることは以前より行われてきたが、最近では生徒一人一人が自分なりの課題設定をした上でその地域のことを調べたり、あるいは探究的な学習を進めていく過程で修学旅行の行き先を決めたりするような学校も増えているようだ。

受入地側とすれば、「探究的な学習」に資するプログラム開発が必須な環境になっている。そんな中、山形県教育旅行誘致協議会が、4種類の新しい教育旅行プログラムを開発したとのことで、6月にそのうちの2つのプログラムを視察する機会をいただいた。
フルーツ王国やまがたのサクランボから学ぶSDGs学習~果樹園の挑戦から考える自らの一歩~
王将果樹園のさくらんぼ
山形県天童市にある王将果樹園では、以前から果物狩り体験を教育旅行向けプログラムとして提供してきた。しかし、今回のプログラムでは新たに、山形が果樹王国である理由や、果樹の特徴、王将果樹園が取り組んでいることなどをテーマにしたワークシートを作成した。このワークシートを活用し、また果樹園のオーナーである矢萩さんからのプレゼンテーションを通じて、山形の地域性やフルーツ王国である所以を知ることができる。

そして、学びを深めていく過程では、地域課題や農業に関する課題に気づいていく。そのうえで果樹園での仕事を体験することとなるが、摘果や摘花なども行うため、単なる収穫体験とは違って、生徒たちにとっては農家の作業の喜びや苦労をかみしめながらの体験になるだろう。

王将果樹園の矢萩オーナー
そして最後には、グループワークを通じて、自分が住む地域の課題を考え、その課題解決のための手法やどのように未来を創造できるかをディスカッションしながら発表する。

オーナーの矢萩さんの言葉の端々には、一般的な農業へのイメージを変えて、「やりがい」「社会の役に立つ」「夢がある」というポジティブなものとしていきたいという想いや、農業の未来のことを真剣に考えている情熱を感じることができた。王将果樹園では、スマート農業を推進したり、自社サイトを充実させて様々な情報発信を行ったり、六次産業化を目指して敷地内にカフェをオープンしたりと、常に新しいことにチャレンジしている。また、農福連携や女性活躍推進にも意欲的に取り組んでいる。このような方からプレゼンテーションをしてもらったり、ディスカッションできることは、生徒たちにとっては、自分の将来像をイメージするきっかけにもなり、キャリア学習にも繋がる側面もあると感じた。
さくらんぼパフェ
5月に、東京都の中学校を受け入れた際には、学校からの依頼で、事前学習として出前授業を実施したそうだ。質疑応答の時間では、様々な視点から、幅広い領域に関する質問や意見が出たそうで、先入観や既成概念にとらわれない生徒たちの発想や着眼点は、矢萩さんにとっても刺激的だったという。ちなみに、生徒からの一番大きなリアクションは、六次産業化の一環で開発した商品の一つである「季節のフルーツパフェ」の説明をした時だったそうだ。確かにこれは生徒たちの「食べてみたい」「写真を撮りたい」という気持ちを掻き立てられる商品だ。

一次産業としての農業を学ぶだけではない充実したプログラム内容だと言える。さくらんぼパフェは本当に絶品だった。

米沢で学ぶ平和な暮らしのための政治~上杉流 平和実践塾~
川中島合戦映像制作体験
「なせば成る なさねば成らぬ 何事も 成らぬは人の なさぬなりけり」の言葉で有名な米沢藩第9代藩主・上杉鷹山(ようざん)。アメリカ第35代大統領、ジョン・F・ケネディが、「日本の政治家で最も尊敬するのは誰か?」と記者に問われた時に上杉鷹山と答えたエピソードでも有名な偉人である。藩主となった時、米沢藩は莫大な借金を抱えていたが、苦しむ民衆のために、鷹山は自ら模範となって質素倹約に努め、新たな産業をおこし、財政の立て直しに全力で取り組んだ。そんな鷹山の取り組みや米沢の歴史を楽しみながら知ることで、現代の政治に関心を持ち、平和を実現するためのSDGsについて主体的に考えるきっかけにしてほしいという想いが込められたプログラムが開発された。このプログラム最大の目玉は、「川中島合戦映像制作体験」だ。

上杉謙信と武田信玄が激突し、戦国時代史上最大の死闘といわれた川中島合戦。米沢市では毎年、地域の祭りのメインイベントとして、約800名の武将や足軽が入り乱れる「川中島合戦」が行われている。それを題材として、クラス全員で役者から撮影まで全てを行い、一つの動画を制作するという内容だ。

上杉軍に扮する生徒、武田軍に扮する生徒、撮影クルーとなる生徒と分かれることとなるが、それぞれの役割をしっかり果たさないと映像は完成しない。まずは役割ごとに講師がついて指導を受ける。講師は、山形県全域の公式観光PR隊でもある「やまがた愛の武将隊」と地元のケーブルテレビ局や映像制作会社の方が務め、プロからの指導を受けることができる。およそ10シーンを撮影し、そこにナレーションを入れたりするなどの編集を行って完成となるが、撮影した映像はすぐに編集され、後日データで提供してくれる。仕上がりによっては、帰路のバスや新幹線で視聴できる可能性もあり、とても楽しそうだ。協調性や団結力が養われ、また楽しみながらも戦の歴史を知り、平和の重要性を学ぶことができる。
やまがた愛の武将隊が上杉神社を案内
この川中島合戦映像制作体験に加え、上杉鷹山政治講座、米沢市上杉博物館・置賜(おきたま)の庭見学、笹野一刀彫体験、上杉神社見学、陣形体験が、このプログラム全体の内容だが、掛けられる時間によって内容はアレンジが可能。もっとも効率的に実施したい場合には、米沢市上杉博物館・上杉神社の見学と、川中島合戦映像制作体験の組み合せとなる。

米沢市上杉博物館は、上杉氏の歴史と文化を中心とした展示や、鷹山についてのシアター上映があり、鷹山の行った改革をわかりやすく理解することができる。

上杉神社は、米沢藩初代藩主・上杉景勝(かげかつ)の側近である直江兼続(かねつぐ)が、生涯の信条として仁義の精神を学んだ上杉謙信が祭神の神社。やまがた愛の武将隊の方がその由来などを解説してくれるが、甲冑をまとった武将からの説明は想像力を刺激され心地よい。

複数クラスの場合には、各見学施設と川中島合戦映像制作体験の順番を入れ替えながら行うこととなるが、松が岬公園のそばに施設が集まっているので、大きな問題は無いだろう。チームビルディングの要素もあり、広島、長崎、沖縄などで行うものとは異なる平和学習として、検討してみてほしい。


プログラム体験の間に、将棋むら天童タワーで、昼食を兼ねたそば打ち体験も行った。本練りから始めて、伸ばし、生地ならしをして、たたみ、切るまでの工程が体験できる。修学旅行生の場合は、5~6人で班を作り、班ごとに準備されたテーブルで、職人さんの説明と実演を見ながら行っていく。職人さんと同じようにやっているつもりが上手くいかなかったり、均等に切ることも実際にはとても難しいことがわかる。しかし最後には、そんな不揃いのそばだからこそ美味しく感じ、純粋に楽しむことができた。他にも将棋の書駒体験や彫駒体験、紅花染め体験などのプログラムがあり、最近はインバウンド客も多いそうだ。


この2つの他に、「樹氷のできるメカニズムと環境問題を考えるプログラム」「鳥海山と環境保全・水と暮らしの関わり方を学ぶプログラム」がある。詳しい内容については、山形県教育旅行誘致協議会ホームページで紹介されているので、ご覧になっていただきたい。

今回の視察では、誘致協議会が学校現場の要望や期待に応えられるようなプログラム開発に努力されていることがよく理解できた。今回視察したプログラムも、これから実施する学校ごとの要望や、実施後の声を聴きながら、変化と進化を遂げていくのだろうと感じた。今後の修学旅行の訪問地として、ぜひ山形県を検討してみてほしい。

【問い合せ先】
山形県教育旅行誘致協議会((公社)山形県観光物産協会内)
山形市城南町1丁目1番1号 霞城セントラル1F
TEL:023―647―2333
URL:https://yamagata-manabi.com/
TOPへ戻る