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掲載記事・視察レポート

視察レポート

「世界農業遺産」梅の郷での「梅システム」をテーマにした教育旅行(2025年11月号掲載)

2025-11-10
文・写真=(公財)日本修学旅行協会 参与 高橋 伸欣 

月刊「教育旅行」2025年11月号掲載
※本記事中の情報は執筆当時のもので、その後変更されている場合があります。
最新情報は問い合せ先にご照会ください。


和歌山県中部の日高地方は、関西国際空港から約90分という場所にあり、海・山・川に囲まれた自然豊かなエリア。2015年に「みなべ・田辺の梅システム」が世界農業遺産に認定されて、今年で10周年となる。この地域の7市町の行政・観光協会・商工団体で構成する御坊(ごぼう)日高教育旅行誘致協議会は、「梅システム」をテーマにした教育
旅行向けの探究プログラムづくりに取り組んでいる。8月にみなべ町で行われた、地元の小学生を対象にした民泊体験会に同行させていただき、「梅システム」をテーマにした教育旅行プログラムを視察した。

「梅システム」とは、薪炭林(しんたんりん)を残しつつ梅林を配置することで、高品質な梅を生産してきた持続可能な農業システム。この地域では、400年以上にわたり、急峻な山間地の斜面という不利な立地条件を活かし、梅林の周辺や急斜面の尾根付近に薪炭林を残すことで、水源涵養や養分の補給、斜面の崩落防止等の機能をもたせ、梅の生産を支えてきた。森林が雨水を蓄え、ゆっくりと時間をかけて地下に浸透させ、きれいな水を河川に供給することで洪水を緩和し、渇水時にも安定した水量を確保することができる。また、梅林では草を生やすことで、表土の乾燥と流出を防ぐとともに、刈り取った草を肥料として梅に還元している。さらに、薪炭林に生息するミツバチは梅の受粉を助け、梅は花の少ない早春(2月頃)に貴重な蜜をミツバチに提供して繁殖を助けている。
南高梅の木からの贈り物「梅染め」と美味しい「梅料理
梅染め体験
みなべ町うめ振興館は、日本一の梅の町の情報発信拠点であり交流ポイントでもある。1階は歴史民俗資料室と多目的室、2階は梅資料室、3階は物産販売所、4階は屋上展望所になっている。教育旅行では、グループ毎に見学と「梅染め体験」を分けて実施することができるので、活用しやすい施設だ。「梅染め体験」は宿泊先のホテル等の施設でも実施できる。

子どもたちは1階の多目的室で、梅農家の女性たちで作る梅染愛好会のインストラクターによる説明と指導のもと、ハンカチの絞り染めを体験した。梅染の染液は梅の木の皮を削り出したものを煮出した汁で、淡いピンク色に染まり、輪ゴムで縛った部分は染まらずに白い模様となる。輪ゴムで縛ったハンカチを15分程梅染液に浸けて放置した後、水洗いして天日干しすれば完成。子どもたちはハンカチが乾くのを待っている間に館内見学をして、“梅システムマイスター”から「梅システム」についての説明を受けていた。

この後、子どもたちは、バスで「世界農業遺産ビューポイント」に移動して、ウバメガシの薪炭林や梅畑などの「梅システム」の現場を車窓から見学した。

昼食は、西本庄区民会館で「梅料理研究会」の皆さんに作っていただいた料理をご馳走になった。梅を混ぜて炊いたちらし寿司、サンドイッチ、サラダ、梅ゼリー、スイカ、梅干などで、梅酢で下味をつけたトリの唐揚げは子どもたちに大人気だった。
梅システムの素晴らしさが実感できる「島ノ瀬ダム」
島ノ瀬ダムの見学
昼食後、子どもたちはバスで南部川上流にある島ノ瀬ダムに向かった。ダム周辺には約500本のサクラの木が植えられていて、春にはその開花に合わせて、毎年地元有志の協力でこいのぼりが揚げられる。

事務所で職員の方から、小水力発電が稼働し、ダムに貯められた水が周辺地域の梅畑の灌漑に用いられていることなどの説明を聞いた。訪問した8月上旬は全国的に猛暑日が続き、各地でダムの水が干上がるという報道がされていた時期だったが、島ノ瀬ダムの貯水率はなんと90%。ほぼ満タンに近いと聞くと、改めて「梅システム」の素晴らしさを実感することができた。その後、ダムの内部の見学を行った。狭い階段を降りていくと、内部の気温は13℃で、外の気温との差が20℃以上あることに、子どもたちはびっくりしていた。
南高梅発祥の地「たかだ果園」
南高梅母樹の碑
島ノ瀬ダム見学の後、子どもたちは、南高梅発祥の地である「たかだ果園」に向かった。大粒で果肉たっぷりの最高級ブランド「南高梅」は、南部(みなべ)の「南」と高田梅の「高」の文字から付けられた名前で、たかだ果園にある南高梅の母樹は、100年以上経った今も、この農園で毎年清らかな花を咲かせている。母樹を見学した子どもたちは、園内にある工場で、たかだ果園が取り組んでいる循環型有機農法の説明を聞きながら、梅の実を洗って日干しにする様子を見学した。

教育旅行向けには、園内の小高い丘にある見晴らしハウスで、梅シロップや梅干づくりなどの体験プログラムがある。また、有機栽培の農園の草刈りや草取り、梅の実の収穫作業、塩漬けの後の梅の天日干しや選別作業などの作業も体験でき、時期や予算に応じて調整してもらえる。

家族の一員として過ごす「民泊」体験
子どもたちは対面式の後、それぞれその日の民泊でお世話になる民家へ向かった。みなべ町を含め日高地方では、現在約70家庭が教育旅行民泊を受け入れている。民泊の目的は、生活体験を通して「交流」することで、自然や田舎の暮らしを実際に体験することで、 子どもたちのコミュニケーション力と心の豊かさを育むことができる。子どもたちは、お客様ではなく「家族の一員」として家庭に入るので、挨拶が終わった後、家庭内の約束事の確認やスケジュールの確認をして、食事の準備や後片付けなど、生活全般を一緒に楽しむことになる。

その他の体験施設・プログラム
子どもたちの体験会の内容は以上だが、これ以外に視察した体験施設・プログラムについて紹介する。

●千里ウミガメ館

本州最大のアカウミガメの産卵地として有名なみなべ町千里の浜。その手前にあるウミガメ館では、ウミガメの生態などを説明したパネル展示コーナーがあり、観察が難しいウミガメの特徴などを分かりやすく学ぶことができる。ウミガメの産卵は夜間なので、教育旅行で実際に観察することは難しいが、館のスタッフが宿舎で出前講座をすることも可能だ。

●梅の友ミツバチ保存会

地元の小中学生に、巣箱を作って学校に設置してもらうなど、ニホンミツバチを増やす取り組みを行っている。教育旅行で訪れた生徒も巣箱を作ることができ、地元の畑に設置してもらえる。中学生なら製作時間は1時間半程度。事前学習は1時間程度でリモートも可能なので、宿泊先のホテルや学校でも実施できる。作った巣箱にミツバチが入れば学校に報告してくれる。他の地域では体験できない、興味深い貴重な取り組みだ。

●紀州備長炭振興館

紀州備長炭の歴史や文化、製造技術を学習することができる。教育旅行の体験プログラムとしては風鈴づくりがある。長さ12cmサイズの細くてかわいい紀州備長炭を4本組み合わせ、綺麗な音色を奏でる風鈴を作って持ち帰ることができる。受入人数は40人程度で、所要時間は約1時間。

●紀州梅干館

ここでは、梅干の製造工程を見学・学習できる。自分好みにタレをブレンドしたオリジナルのMy梅干づくりや梅ジュースづくりが体験でき、作った梅干や梅ジュースはお土産に持ち帰ることができる。教育旅行での体験時間は約30分で、一度に100人程度が体験できる。
紀州備長炭の窯
紀州梅干館の工場見学
今回は、地元の子どもたちが参加する民泊体験会を同行視察させていただき、子どもたちがいきいきと楽しそうに活動する様子を間近で見ることができた。和歌山県日高地方では、世界農業遺産「梅システム」やニホンミツバチ、備長炭などに関する、この地域でしかできない様々な貴重な体験をすることができる。遠方の地域からの修学旅行として、また関西の近隣地域からの宿泊体験としても、教育旅行の候補地として検討していただければ幸いだ。

【問い合せ先】
御坊日高教育旅行誘致協議会 (事務局:和歌山県日高振興局)
和歌山県御坊市湯川町財部651 日高総合庁舎内
TEL:0738―24―2911

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