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掲載記事・視察レポート

視察レポート

「探究的な学び」につながる熊本の教育旅行向けプログラム(2026年5月号掲載)

2026-05-07
文・写真=(公財)日本修学旅行協会 理事長 竹内 秀一

月刊「教育旅行」2026年5月号掲載
※本記事中の情報は執筆当時のもので、その後変更されている場合があります。
最新情報は問い合せ先にご照会ください。

平成二八(2016)年の熊本地震から10年が過ぎ、熊本城では天守の復旧が完了し、一般に公開されている。一方、阿蘇では地震の経験と教訓を後世に伝えるためのミュージアム「KIOKU」が整備され、教育旅行に向けた防災・減災学習のプログラムがつくられている。また、阿蘇の恵みを踏まえたSDGs学習のプログラムも「探究学習」に対応すべく各地でブラッシュアップされている。

昨年12月、(公社)熊本県観光連盟が主催する「教育旅行視察ツアー」に首都圏の公立高校の先生方とともに参加させていただき、防災・減災学習やSDGs学習などのプログラムを体験した(▼以下は参加された先生方の感想)。
熊本地震から学ぶ防災・減災と復興
赤い車の残骸と掛け時計
●震災の記憶を伝える「KIOKU」

28時間のうちに震度7を2度記録した熊本地震。10年を経過した現在、被災した地域の復興が進んでいるが、その経験や教訓を風化させないよう、後世に伝えていくための拠点として整備されたのが「熊本地震震災ミュージアムKIOKU」だ。ミュージアムは、展示施設と旧東海大学阿蘇キャンパスの旧1号館、地表地震断層遺構などで構成されている。

展示室1でまず目に留まるのが赤い車の残骸。そして、本震の起きた時刻・午前1時25 分を指して止まっている掛け時計だ。シアターでは「熊本地震その時」という約10 分間の映像が、地震発生時の様子をリアルに伝える。展示室2にある熊本地震の震度分布を示したジオラマでは、地震のメカニズムから地形による災害の可能性を考えることができる。展示室3では、被災した方々の言葉とともに復興が進む熊本の今が、映像やパネルで紹介されている。

地表地震断層遺構
旧1号館は、鉄筋コンクリート造のY字型の建物。無いとされていた断層が建物の真下に現れ、大きな被害が発生した。ほぼ当時のままの状態で残されている建物を見ると、耐震補強が施されている部分と施されていない部分があることがわかる。よく見ると、鉄筋が曲がり、コンクリートが砕かれるなど、被害が大きいのは耐震補強のない中央部分で、補強の効果が確認できる。芝生広場には、キャンパスの全域を貫く地表地震断層の一部が保存されている。地面が大きく横にずれている様子から、地震の凄まじさ、怖さが伝わってくる。

KIOKUは、災害を自分事としてとらえ、自然との共生を図るには「備え」が重要であることを、あらためて学ぶことができる優れた施設だ。

KIOKUを見学したあと、震災遺構が保存されている現地に向かう。車で10分ほど行くと、山の頂上付近から大量の土砂が崩れ落ちた「数鹿流(すがる)崩れ」と崩落した旧阿蘇大橋、新たに建設された新阿蘇大橋を見学することができる展望所に着く。熊本地震の爪痕をよりリアルに伝える震災遺構と復興を物語る新阿蘇大橋は、ぜひ見ておきたい。

▼東海大学の建物を実際に見ることで、熊本地震がどれだけ強い揺れであったのかを実感することができた。断層上の被害の大きさを実際に見て学ぶことにより、その土地の特徴等をよく調べて、それに合わせて生活していくことが必要なのだと感じた。

▼復興が進む一方、現地には今なお地震の痕跡が生々しく残っており、熊本が「記憶」を残し「継承」する取り組みを行っていることの意義を強く感じた。

▼安全と考えられていた地域で多数の犠牲者が出た事実から、画一的なハザード評価の限界や避難生活への備えの重要性を学ぶことができる、未来へ教訓をつなぐ場であった。

復旧した天守と崩れた石垣
●「今こそ見てほしい熊本城」

天守の復旧が完了した熊本城には多くの観光客が訪れていて、地震前のような賑わいが戻っている。ここでは「今こそ見てほしい熊本城~記憶の記録~」という、レクチャーと熊本城のフィールドワ―クを組み合わせた防災・減災プログラムが提供されている。

熊本城のふもとの「城彩苑」にある熊本城ミュージアムわくわく座でのレクチャーは、VR映像で武者返しのある高い石垣や迷路のような曲輪(くるわ)など、熊本城のつくりについて学ぶことから始まる。ついでスタッフ自身が体験した熊本地震と震災直後の熊本城の様子が、映像を用いて語られる。とくに震災関連死のことや地震直後にあふれたフェイク情報の危険性、「自分の命は自分で守る」ことの大切さについての話は、実体験に基づいているだけに印象深いものだった。

フィールドワークでは、10名に1人のガイドさんがついて、まさに今しか見学できない熊本城の見どころを紹介してもらえる。崩れた石垣の石を元通り正確に積むために、石垣の照合システムを活用している、といった文化財修復のための工夫が、現場を見るとよく理解できる。また、洪水や地震、火山噴火などの自然災害をあらかじめ考慮して城がつくられていることなど、防災の視点からの説明も新鮮だった。

▼熊本のシンボルである熊本城の復興工事を進めていくことで、街に活気を与えることができるとのお話にたいへん納得した。石垣の石の積み方、文化財ならではの工事の難しさなど、初めて知ることがたくさんあった。古くから人々の誇りであり、支えとなってきた熊本城を、現在も熊本の方々が大切にしている姿をぜひ生徒に見せたいと思った。


くまもとで学ぶ・体験するSDGs
ショーケース型植物工場の展示
●くまもとSDGsミライパークでの探究学習

昨年、阿蘇くまもと空港に隣接してオープンしたくまもとSDGsミライパークは、探究学習の重要テーマになっているSDGsについて、「見て・触れて・考える」ことができる学習施設だ。

パークでまず気が付くのは、空港で見かける表示板。ここは、かつての仮設旅客ターミナルをリノベーションした施設で、廃校になったイスを再利用するなど、ミライパーク自体がSDGsを体現していることがわかる。企業展示エリアでは、水と電気と栄養素だけで栽培する「ショーケース型植物工場」の展示や半導体の製造工程で使用する地下水を循環させるしくみを紹介する展示などを通して、各企業のSDGs実現に向けた最前線の取り組みを学ぶことができる。生徒たちは、これらを見学し体験することで、社会全体がSDGsに向かって動いていることを実感するにちがいない。

ミライパークでは、ワークショップ形式で行う探究学習のプログラムも用意されている。「キャリア探究」のプログラムは、キャリアプランを考えるうえで、自分の強みを「軸」とすることの大切さを学ぶ。そのうえで企業がどんな強みをもってSDGsに取り組んでいるかという視点で展示を見学し、それを自分に置き換えてみるという内容だった。

ほかにも「SDGs探究」として「SDGs実行プログラム」、「テクノロジープログラム」があるが、企業展示を活かしたこれらのプログラムは、生徒たちの学習意欲を高めるうえで大きな効果が期待できるものだ。

▼各企業のSDGsの取り組みはふだん知る機会がないため、この展示を見ることで「企業がこんなにもSDGsに取り組んでいる」と実感し、生徒個々のSDGsへの意識も高められる。

▼探究学習のプログラムは、「探究する自分の発見」をテーマとし、過去を学び、未来を創造し、それを自分事として落とし込むことを目的としている点が特徴的だった。

阿蘇火山博物館での講話
●火山と共存する阿蘇人から学ぶ

阿蘇・烏帽子岳の北麓に広がる草原・草千里ヶ浜の正面に阿蘇火山博物館がある。博物館の常設展示では、阿蘇火山の生い立ちが迫力あるジオラマで解説されるほか、阿蘇の地形・地質、世界の火山、草原と人々との関りなどが紹介されている。なかでも、噴煙をあげる中岳の火口の様子をリアルタイムで観察できるプロジェクションマッピングは「火山が生きている」ことを実感できる圧巻の展示だ。また、3階の五面マルチホールで観られる阿蘇の自然や文化を紹介する映像も迫力がある。阿蘇の全体像を学ぶうえで、この博物館への訪問は欠かせない。

博物館では、学校に向けた8つの探究プログラムを実施している。それらのうち「火山と共存する阿蘇人から学ぶSDGs」を体験した。このプログラムは、目の前にある広大な草原と人々との関係がテーマになっている。阿蘇を紹介する映像を視聴した後の講話では、阿蘇の生態系は草原をベースにしているが、草原は人の営みがつくりだしたもの。放っておけばやがて森になり、現在の環境は維持できない。草原のCO吸収力は森林以上、そのためにも野焼きは不可欠の作業。それらのことを踏まえ、今後、阿蘇の草原を守り生態系を維持していくにはどうすればよいか、といった問いかけがあった。その後、草千里ヶ浜を講師の案内で散策し、講話の内容を振り返る。
草千里ヶ浜散策
草千里ヶ浜の壮大さにどんな生徒も感動するにちがいない。だがこのプログラムでは、それに加え、自然と人との共生について学び、考えることができる。「深い学び」にふさわしい優れたSDGs学習のプログラムとして、学校にはぜひおすすめしたい。

▼講義の後に実際に外に出て「見る」ことにより、理解をより深められると感じた。阿蘇は人が手を加えた自然であり、古くからその地で暮らしていくための工夫がなされている。技術の発展が著しい昨今だが、それにも勝る「人間の知恵」を感じた。

▼講義は、阿蘇カルデラの特色と人々の生活の関係について、「問いが問いを生む」構成が非常に魅力的だ。現在のカルデラ内環境は純然たる「自然」ではなく、人間の関与によって形成・維持されている環境であること、草原のCO吸収能力が森林を上回ることなど、生徒の固定観念を揺さぶる学びが提供された。

阿蘇火山がもたらすさまざまな恩恵
ベンガラづくり体験
●日本リモナイトで学ぶ「阿蘇黄土」の可能性

阿蘇火山がもたらした恵みの一つが地元で「阿蘇黄土(こうど)」と呼ばれている良質のリモナイト(褐鉄鉱(かってっこう))だ。

阿蘇の大噴火が生み出した火口湖に流れ込んだマグマや生育した植物の成分が、湖が干上がったのちのカルデラの中に浸み込み、それが地下に堆積してリモナイトが形成される。神社の鳥居などに用いられる赤い顔料(ベンガラ)は、これを熱して赤くなったもの。鉄の原料として使われたこともあるが、最近では、リモナイトに含まれる豊富なミネラルを活かした畜産飼料、優れた吸着力を利用した有毒ガスを取り除く「脱硫化水素剤」など幅広い分野で用いられている。

株式会社日本リモナイトでの学びのプログラムは、このようなリモナイトの歴史や特徴、活用のされ方などのレクチャーを受けることから始まる。その後、リモナイトの採掘現場などを見学、ついで鉄分が溶け込んだ井戸水の試飲、ベンガラづくり、リモナイトに異臭を吸着させ事前・事後の臭いの違いを確かめる、といった、生徒にとっても初めてとなる体験をする。

リモナイトそのものはなじみのない鉱物だが、現在も様々な分野で活用され、将来的にも大きな可能性をもっている。五感を使ってそれが実感できる、生徒に体験させたい「学び」のプログラムだ。

▼講話と実験をともなう学びによって理解しやすいように工夫されていた。井戸水を実際に飲んだり、フライパンで黄土を炒めてベンガラを作ったり、異臭がする液体に脱硫剤を混ぜて臭いの変化を確かめるなどの実験をおこなった。五感をフル活用したプログラムであったため、疑問が自然とわき、探究心を高めるのに有効的なプログラムだと感じた。

くまもと水プログラム
●「くまもと水プログラム」で水問題を考える

熊本には、1000ヶ所以上の安定した湧水があり、熊本市近郊に住む約100万人の人々の暮らしは、地下水によって支えられている。この豊かな水も、阿蘇の大噴火による火砕流がつくった地層と、先人の英知に基づく農耕の営みがもたらしたものだ。しかし、今、地下水を涵養する地域は減少しつつあり、水資源の保全に取り組む必要性が高まっている。

「くまもと水プログラム」は、そうした貴重な水資源の涵養や保全、ひいては地球環境について学び・考えるプログラムで、講話とフィールドワークとを組み合わせた内容になっている。今回は、その講話と水の飲み比べを体験した。

講話では、映像で熊本の水と阿蘇大噴火との関係を学んだあと、水資源涵養のための森林の保全、棚田を活用した水田湛水(たんすい)事業などについて解説された。その後、アメリカ・フランス・熊本の水を飲み比べ、熊本の水を当てるという体験。誰も間違えることなく、あらためて熊本の水のおいしさを体感した。

また、車窓からだったが、水を大量に利用する半導体製造工場の立地を確認し、世界かんがい施設遺産に登録されている白川の上井手(うわいで)・下井手(しもいで)用水も見学した。

地域振興を図るための水資源の活用とその水を涵養・保全するための取り組み、両者をどのように両立させていくか、SDGsを学び考えるうえで大切な課題を提起するプログラムだといえるだろう。

▼日本では当たり前のように水を使うことができ、水を無駄づかいしてしまうことも多い。水について詳しく学ぶ機会は日頃の学校生活ではあまりないため、水のありがたさや貴重さについて考えるよいきっかけとなった。

▼菊陽町に建設された半導体製造工場が熊本の「水」と結びつく意義について理解することができた。豊かな水資源が人々の営みと景観を支えてきた歴史と、先端産業を支える現在、その双方が重なり合う学びで、未来を見据えた責任ある水資源利用の重要性を考えさせる。


今回の視察は、熊本地震に関わる防災・減災学習プログラムと熊本が取り組んでいるSDGsに関する学習プログラムを体験することに重点が置かれていた。防災・減災学習は、地震後の復興事業も含め「住み続けられるまちづくりを」というSDGsの目標に通じている。これらのプログラムは、生徒たちが「持続可能な社会」の在り方を考えていく「深い学び」を進めるうえで、貴重な糧となる内容で構成されている。

つぎにツアーに参加された先生方の感想をあげて、レポートのまとめとしたい。

▼事前・事後学習に対応したプラン提示は学校にとって大きな安心材料である。今回の視察を通じ、災害と自然の恵みを一体として捉える視点や、災害の歴史を復興・継承の歴史として捉える重要性を実感した。こうした学びを、次代を担う多くの子どもたちが得ることを期待したい。

▼「水」をテーマとしたプログラムなど、非常にわかりやすい学びのある地域であると感じた。また半導体など未来につながる施設もあり、歴史と文化だけでなくこれからの未来について学べるたいへん有意義な場所であると感じた。

▼熊本の教育旅行の強みは、人文社会系から自然科学系まで幅広く対応できる豊富なプログラムと、それらが「水」を軸に、「自然の恵みと災害」「過去・現在・未来」「継承」といった補助線で結ばれストーリー性を形成している点にあると感じた。また、探究活動との親和性も極めて高い。SDGsの観点から見ても、先人の責任ある水利用が現在を支え、現代の私たちの水利用が未来世代を支えるという視点を学べる点は大きい。

【問い合せ先】
(公社)熊本県観光連盟
TEL:096―382―2660
URL: https://kumamoto.guide/shugaku/
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