本文へ移動

掲載記事・視察レポート

視察レポート

秋田県男鹿・仙北の教育旅行向け体験活動プログラム(2024年4月号掲載)

2024-04-08
文・写真=(公財)日本修学旅行協会 理事長 竹内 秀一、編集部 中出 三千代
月刊「教育旅行」2024年4月号掲載
※本記事中の情報は執筆当時のもので、その後変更されている場合があります。
最新情報は問い合せ先にご照会ください。


南北に長く広がる秋田県。ナマハゲや竿燈(かんとう)などの伝統文化体験、角館(かくのだて)や尾去沢(おさりざわ)鉱山などでの歴史学習、能代などで再生可能エネルギーについて学ぶSDGs学習、自然豊かな農山村での暮らし体験など、秋田での「学び」のプログラムは様々で、どの地域で、どんな体験をさせたらよいか迷うほど。今回は、東北観光推進機構が主催する「東北教育旅行現地研修会」に参加させていただき、日本海に面した男鹿(おが)市、内陸部の仙北(せんぼく)市の体験活動プログラムを視察した。
男鹿市
男鹿のナマハゲを体験

秋田は、国指定の重要無形民俗文化財が全国一多い県だ。それらを代表するのがナマハゲ行事で、男鹿のナマハゲはユネスコの無形文化遺産にも登録されている。

ナマハゲは、大晦日の晩に出刃包丁を持って家々にやってくる。そんな恐ろしいイメージがあるナマハゲだが、本来は、家人の怠け心を戒め、翌年の五穀豊穣をもたらしてくれる来訪神。だから、ナマハゲを迎える各家は、料理や酒を用意して丁重にもてなすのだ。そのナマハゲをメインに、男鹿の自然や風習を紹介しているのが「なまはげ館」だ。ナマハゲの面や衣装、行事のしきたりは集落ごとに異なっているが、「なまはげ勢ぞろい」のコーナーには、それら150枚を超える多種多様な面と衣裳をつけたナマハゲたちが一堂に展示されていて圧巻の迫力。「なまはげ伝承ホール」では、ナマハゲの由来や、各集落に伝えられているナマハゲの習俗などを紹介した15分ほどの動画が上映され、この行事を伝承してきた男鹿の人々の思いに触れることができる。

「なまはげ館」の隣にある茅葺屋根の民家は、男鹿の典型的な曲家(まがりや)。ここ「男鹿真山伝承館」では、大晦日にしか行われないナマハゲ行事をいつでも体験することができる。真山地区に伝わるナマハゲには角が無く、二人一組になって家々を廻る。家に乱入する前には「先立(さきだち)」が家の主人に訪問の可否を確認、家に上がるとすぐに四股を踏むなど、古くからのしきたりがよく残されている。荒れ狂うナマハゲ、それを主人がなだめて酒肴でもてなすと、ナマハゲもおとなしくなって少しホッとする。主人と問答を交わした後、ナマハゲは来年の豊作を祈願して去っていく。

このような行事が、男鹿になぜ連綿と伝えられてきたのか…。地域のコミュニティに伝統行事が果たしてきた役割を考えるうえで、ナマハゲ行事はこのうえない体験となるはずだ。
勢ぞろいした各集落のなまはげ
なまはげ行事を体験
大水槽を上から見学
水族館で秋田の自然を学ぶ

秋田県立男鹿水族館GAOは、男鹿半島の西側、最突端の入道崎を望む場所にある、秋田県唯一の水族館。館内に入るとまず待ち構えるのは、男鹿の海を再現した「男鹿の海大水槽」。水量は800t、約40種2000匹もの魚たちが泳ぐ大迫力の水槽だ。2階には、自然豊かな秋田の森が育む川と湖沼にすむ魚たちを展示する「秋田の森と川の魚」、秋田の県魚ハタハタの生態がわかる水槽「ハタハタ博物館」があり、秋田の自然とそこにすむ生きものの姿が身近に感じられる。いちばんの人気ものはホッキョクグマで、現在はオスの豪太とメスのユキの2頭がいる。アシカやアザラシ、ペンギンなども近くで観察でき、コンパクトながらもたくさんの種類の生きものたちと触れ合うことができる。

教育旅行向けプログラムも充実している。その一つ「裏側見学」を飼育員の方に案内していただいた。スタッフしか入れない水族館の裏側に入り、水槽のろ過装置や具合の良くない魚をメンテナンスする水槽などを見学する。コースの最後には、大水槽を上から見学するという貴重な機会もあり、管理用の橋を渡って水槽の真上に立つこともできる(所要時間20分、1グループ20名まで)。そのほか、水族館スタッフによる講話には、「ホッキョクグマのおはなし」「ハタハタのおはなし」「飼育員と考える、これからの海のこと」の3つのコースがある(所要時間40分、80名まで)。

教育旅行の団体には、入退場時間の調整やウェブによる事前打ち合わせなど、きめ細かな対応をしてもらえる。訪れる前に、スタッフに相談されるとよいだろう。
仙北市
青柳家の薬医門
角館のまちを歩いて学ぶ

「みちのくの小京都」として知られる角館は、17世紀の前半、この地を治めていた芦名氏によって築かれた城下町だ。武家屋敷群をはじめ、近世城下町の景観がよく残されていて、まちなかを散策すれば歴史の授業で学んだことが実感できる。

見学できる武家屋敷がいくつかあるが、今回は「角館歴史村・青柳家」を訪ねた。青柳家は、芦名氏ついで佐竹氏に仕えた上級武士。彼らにしか許されない薬医門は、万延元(1860)年の建築で、重厚かつ格調の高さが感じられる。門を入った正面が県指定史跡の「旧青柳家武家屋敷」。約200年前の建物がそのまま残されている。玄関や座敷など各所に施された武家好みの意匠に着目したい。

見逃せないのが「解体新書記念館」。『解体新書』の見事な附図は、青柳家の親戚で角館出身の武士、小田野直武(なおたけ)によるものだ。記念館では、平賀源内に西洋画の技法を学び、秋田蘭画を確立した彼の足跡を知ることができる。

まちなかを歩いていると、武家屋敷群の南端に空地があることに気付くかもしれない。この空地は「火除け」と呼ばれる防火帯で、これを境に武家と町人の居住区が分けられていた。防災に対応するための工夫を凝らした当時の都市計画がよくわかる。こうした城下町の景観は、それを守っていこうという地域の人々の思いや努力があってこそのこと。まち歩きを楽しみながら、そうしたことも考えてみたい。
樺細工職人の実演
青柳家の近くに角館樺細工(かばざいく)伝承館がある。樺細工は、ヤマザクラの樹皮を用いて作る工芸品だ。もともと下級武士が手内職として印籠や眼鏡入などを作っていたが、その技術が伝えられ角館特産の伝統工芸品となった。伝承館では、茶筒やお盆といった樺細工の工芸品が展示され、樺細工職人による製作の実演も行われている。樺細工の壁掛けやコースターをつくる体験もできるので、ぜひ職人の技に挑戦してみてほしい。

昼食は、武家屋敷群近くの「百穂苑(ひゃくすいえん)」をおすすめしたい。栗おこわや稲庭うどん、しょっつる、いぶりがっこなど、秋田ならではの郷土の「食」が味わえる。

角館のまち歩きは、班別自主行動に最適。様々なテーマをもって歩けば「深い学び」に繋げることができるだろう。
踊り体験(写真提供:わらび座)
わらび座で「踊り体験」

仙北市郊外のあきた芸術村は、秋田や日本の伝統芸能をベースにしたミュージカルを主に上演する劇団「わらび座」の拠点だ。あきた芸術村には、その中心となるわらび座の常設劇場「わらび劇場」と宿泊施設の「温泉ゆぽぽ」のほか、食事処や手作り体験工房などがある。

ここに宿泊するほとんどの学校団体が体験するのは、現役の劇団員がインストラクターとなる「踊り体験」。標準的なスケジュールは、芸術村に到着したら、まずはわらび座の公演を鑑賞する。その後、クラス単位に分かれて、わらび座オリジナルの「NEWソーラン節」を2時間ほど練習する。ダンスや運動が苦手な生徒でも、インストラクターの指導と仲間の励ましで、短時間の練習でもきちんと踊ることができるとのこと。チームビルディングとしても最適の活動だろう。

温泉ゆぽぽでの夕食の後は、いよいよ発表会。クラス毎にわらび劇場の舞台で踊りを披露する。達成感や仲間との絆を感じて、感動のあまり泣き出す生徒も多いそうだ。生徒たちの団結力や一生懸命な姿に感動したという、引率の先生方からの感想も多く聞かれる。

教育旅行の受入れは40年以上の歴史と、30万人以上の生徒を迎えてきた実績があるので、安心して体験を伴った宿泊をすることができる施設だ。


秋田を修学旅行先としている中学・高校は、まだそれほど多くない。しかし前述したように、秋田には、生徒の「探究的な学習」の課題に応えられる多様なプログラムがある。ここで紹介したのはほんの一部だ。オリジナルな修学旅行を創るなら、ぜひ秋田を旅行先として検討していただきたい。

【問い合せ先】
(一社)東北観光推進機構
宮城県仙台市青葉区一番町2―2―13 仙建ビル8F
TEL:022―721―1291
TOPへ戻る