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月刊「教育旅行」掲載記事ブログ

視察レポート

鳥取・奥大山での自然体験型学習「プラネタリーヘルス・ツーリズム」(2024年7月号掲載)

2024-07-10
文・写真=(公財)日本修学旅行協会 編集部 中野 瑞枝
月刊「教育旅行」2024年7月号掲載
※本記事中の情報は執筆当時のもので、その後変更されている場合があります。
最新情報は問い合せ先にご照会ください。


中国地方の最高峰、大山(だいせん)の南側「奥大山」に位置する鳥取県江府(こうふ)町は、県内で最小人口の町だ。町の資源は、奥大山の雄大な自然と豊かなブナ林が育む天然水の採水地。美しい自然とおいしい水に恵まれた江府町を拠点とした、自然体験型学習「プラネタリーヘルス・ツーリズム」の構想発表会に参加する機会を得た。
大山
構想発表会でプレゼンする桐村里紗氏
江府町とプラネタリーヘルス・ツーリズム
プラネタリーヘルスとは、2015年に提唱され国際的に推進されている概念で、地球の健康と人間の健康は一体と捉え、その全体の健全性を実現しようとする考えだ。

日本においては、医師でもある桐村里紗氏が代表を務め、2023年7月に(公財)日本ヘルスケア協会プラネタ
リーヘルス・イニシアティブを設立した。全国に先駆けて事業を展開する地域を模索する中、3000人の町民とともに奥大山の美しい自然を守り再生するという江府町の将来ビジョンと考え方が一致。体験活動の造成事業パートナーの協力も得られたことから、本年4月に本格始動となった。

訪れる児童・生徒には奥大山をフィールドに様々な体験と感動を通じ、また地域の歴史や文化にふれながら、自分と地球との繋がりを見つめなおす機会にしてほしい。

湧水地をめぐり人々との関わりを学ぶ
地蔵滝の泉
江府町周辺には、古くから地域の水源地として守られてきた湧水池など山陰を代表する名水が点在する。今なお人々の生活に深くかかわっている代表的な3つのスポットをめぐった。

伯耆(ほうき)町丸山集落にある「地蔵滝の泉」は、因伯(いんぱく)の名水に選ばれる清流だ。この地は、出雲と米よな子ご方面からの交通の要衝の一つにあたり、大山寺を目指す参詣者が休息した場所でもあった。湧き出る水は地元の良質米・八や郷ごう米を育む灌漑用水として利用され、泉の周辺はセリが生い茂り、別名「せり川」とも呼ばれ親しまれている。

米子市淀江(よどえ)町本宮(ほんぐう)の民家が建ち並ぶ中に、県内でも例を見ない湧水量を誇る因伯の名水「本宮の泉」がある。コンコンと湧き出る量は日量3万トン。その透明度はたとえようのないほど澄んで美しい。現在も簡易水道の水源として管理されており、生活用水・農業用水などに利用されている。

同じく淀江町高谷集落に「天(あめ)の真名井(まない)と呼ばれる名水がある。地元では湧き出る湧水を利用して水車を回し、米つきがおこなわれてきた。その水車も最後に残された1基が動かなくなっていたが、住民の熱意により今年3月に水車と茅かや葺ぶき屋根の米つき小屋が修復された。
本宮の泉
天の真名井の米つき小屋と水車
地域の歴史文化にふれる
■貝田集落の棚田風景と鈑戸の両墓制
江府町御机(みつくえ)の貝田(かいだ)集落は、江府町のほぼ中央に位置し、大山の南麓を正面に仰ぐ棚田風景は、絶景の撮影スポットとしても知られている。集落の水路は、奥大山の豊かな湧水を自然のままで保存するために石積み等で整備され、棚田で作られた貝田米は古くから優良米として高い評価を得ている。進行する過疎化や高齢化の中にあって、集落では代々受け継がれている棚田の維持保存に取り組んでいる。

大山町の鈑戸(たたらど)地区には、両墓(りょうぼ)という土葬文化が今なお残っている。両墓制とは、人間の肉体には霊魂が宿るという信仰で、1人の死者に対して2つの墓を作り、死者の肉体を埋め墓(ステバカ)に埋葬し、頭髪の一部を切り取って埋めた詣り墓(アゲハカ)を別の場所に作って霊を導いて拝むという風習である。埋め墓は穴を掘った際に出た石を積み上げただけの素朴な墓だが、土中には奥大山からの湧水が流れ、言い伝えで人間は土にかえるとされている。

水田に逆さ大山が写る御机の棚田風景
墓花が祀られる埋め墓
大神山神社奥宮((C) 鳥取県)
■大神山神社奥宮
大神山(おおがみやま)神社奥宮(おくのみや)(大神山は大山の古い呼び名)は古くから信仰を集め、地元では「大山さんのおかげ」と大山に向かって手を合わせる人も多い。令和の遷宮が行われた山岳信仰の古刹を訪ねた。

社殿へは、わが国最長とされる自然石を敷き詰めた700mにわたる参道を進む。参道沿いには「御神水(ごじんすい)」と書かれた名水があり、神事が毎年7月に執り行われている。歩くだけでもご利益があると伝えられる奥宮の参道を歩き、神の水といわれる名水にふれることも貴重な体験となるはずだ。
奥大山自然塾との連携とその他の施設
奥大山自然塾のインストラクターと一緒に 楽しく大自然を学ぼう!
江府町は、奥大山の美しい環境の中で、地球環境をはじめ、水・自然の大切さを体感的に学ぶ環境教育の実践の場として「奥大山自然塾」を2023年5月に開校した。プラネタリーヘルス・ツーリズムとともに江府町がチャレンジする教育プロジェクトという観点から、連携・協力して児童・生徒の受入れに意気込んでいる。奥大山自然塾のプログラムの一つ、スタンダードコースは、奥大山の大自然の中で人と森の関係を学ぶ「緑の教室」や、地球46億年の歴史を460mに置き換え地球と人類の歴史を学ぶ「46億年地球の道」など、4つの体験を通じて環境問題を考える。所要時間は150分、受入人数は最大約120人。インストラクターは江府町職員の肩書を持つ人も多く、豊かな表現力で子供たちに接している。

御机にあるサントリー天然水奥大山ブナの森工場は、案内係と一緒にプロジェクションマッピングや製造工程、雪を貯蔵して自然エネルギーとして利用する貯蔵部屋「雪ゆき室むろ」の見学を受け入れている。所要時間は約60分、美味しい天然水の試飲もできる。

宿泊施設としては、受入実績豊富な「休暇村 奥大山」がある。奥大山の標高920mの高原にあり、周囲はブナやミズナラの原生林が広がる。和室中心で全50室、大浴場は地下から汲み上げた奥大山の天然水を使用。


国立公園大山へは、飛行機で羽田空港から米子鬼太郎(きたろう)空港まで1時間、空港からは車で約70分。広島や大阪からは車で約3時間。また大阪から岡山まで新幹線、岡山からはJR伯備(はくび)線で特急に乗り継ぎ米子駅まで約3時間で着くことができる。

伯備線から見える大山の美しい山容は、別名「伯耆富士」とも呼ばれる。一方、北壁(きたかべ)と呼ばれる険しく壁のように立ちはだかる岩肌も見ることができる。四季折々に、また見る場所で異なる美しさを見せる大山。訪れる児童・生徒はどのような姿を見ることだろう。

【問い合せ先】
(一社)Bisui Daisen(ビスイ ダイセン)
鳥取県米子市淀江町今津50番地1
TEL:090―4142―0145(担当 大原)
URL:https://www.bisuidaisen.org/
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