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月刊「教育旅行」掲載記事ブログ

視察レポート

「平和の郷」ブルネイ・ダルサラーム国でできる本物の異文化体験と探究学習(2024年7月号掲載)

2024-07-10
文・写真=(公財)日本修学旅行協会 事務局長 高野 満博
月刊「教育旅行」2024年7月号掲載
※本記事中の情報は執筆当時のもので、その後変更されている場合があります。
最新情報は問い合せ先にご照会ください。


本年2月に、ブルネイ・ダルサラーム一次資源・観光省 観光開発局が主催した旅行会社向けの教育旅行視察ツアーに参加した。ブルネイは、本誌2020年7月号のグラビア特集で紹介したが、筆者も含め、「ブルネイ」という国名は聞いたことはあるが、どこにありどのような国か知らない人が多いのが現状だろう。

ブルネイ・ダルサラーム国は、ボルネオ島の北西海岸に位置し、マレーシア領に囲まれている。人口約45万人、国土面積5、770km2(三重県とほぼ同じ)と非常にコンパクトな国だ。首都バンダル・スリ・ブガワンへは、ロイヤルブルネイ航空の直行便が成田から週4便就航していて、所要約6時間半、時差も1時間と、日本から行きやすい。空港から街の中心部へは約20分で到着する。小さな国なので、どこに行くにも時間はそれほどかからず移動できるのが魅力だ。

ブルネイは、スルタンであるブルネイ国王を元首とする世界でも数少ない立憲君主制の国であり、国民の多くは敬虔なイスラム教徒。公用語はマレー語だが、英国の保護領だった歴史もあり(1984年に独立)、ほとんどの場所で訛りのないわかりやすい英語でのやり取りが可能だ。石油や天然ガスなどの豊富な地下資源に恵まれ、高い生活水準と戒律を厳格に守る国民性のため、街を歩いていても非常に安全だと感じられた。約7割がマレー人で、中国人、インド人のほか、6つの先住民族がいる。イスラム教の女性は外出する時に髪を隠すためのトゥドンというスカーフをかぶっているが、すべての人がイスラム教徒ではないので、かぶっていない女性もよく見かける。
ブルネイでの学校交流
今回の視察では、ブルネイ工科教育大学(IBTE; Institute of Brunei Technical Education)ブルネイ・ダルサラーム大学(UBD; Universiti Brunei Darussalam)を訪問し、日本からの教育旅行の受入れについて、学校関係者と意見交換した。

ブルネイ工科教育大学は、ブルネイの事業者が求める人材を育成する実業系の学校で、社会に出てすぐに働けるような知識や技術を身に付けることができる。ホスピタリティ&ツーリズム学部の授業と調理実習を見学させていただいた。この日は、入学して間もない学生が、ぬいぐるみを観光客に見立ててガイドとして説明する模擬演習が行われていた。紙の教科書やノート等は無く、投影資料とスマートフォンを活用して授業が進められていた。学生は全てブルネイ人で今まで留学生の受入れは無いというが、日本に留学された先生や日本語を独学で習得した生徒もいて、親日的であると感じた。今後は積極的に教育旅行を受け入れていきたいと仰っていて、非常に期待が持てた訪問だった。

ブルネイ・ダルサラーム大学はGenNext というプログラムを立ち上げていて、リーダーシップとイノベーション、起業家精神、環境意識を育むことを目的としている。日本の学校がいま関心を持っているテーマと親和性がある大学だろう。全ての学生が海外に出ることを計画しているため、国際交流を求めてブルネイに来る学校と交流がしやすい環境にあると感じた。短時間の交流や訪問ではなく、一定の滞在日数の中で、現地の学生と共同してどのようなことがしたいのか、何を学ぶのか、目的を持って来る学校を受け入れたいという意向が伺えた。また、一般公開はしていないが、UBDボタニカルガーデンというブルネイ初の植物園が併設されているので、植物学や環境学に関連したテーマで、大学の先生や学生と共同研究をしてみるのも面白いかもしれない。

今回、中学校や高校を訪問する機会は無かったが、ブルネイ教育庁の方からは、中学・高校でも国際交流には関心があり、積極的に進めていきたいという意見を伺った。ただし、事前に教育庁に届け出を出し、受入校を探してもらう必要があるそうだ。

ブルネイ工科教育大学
ブルネイ・ダルサラーム大学
イスラム文化とブルネイの歴史を学ぶ
ジャメ・アスル・ハサナル・ボルキア・モスク
イスラム文化を知るうえで、必ず訪問したいのがモスクだ。今回は2つのモスクを訪れた。ハサナル・ボルキア現国王の即位25周年を記念して建設されたジャメ・アスル・ハサナル・ボルキア・モスク(ジャメ・モスク)と、先代の国王が建てたスルタン・オマール・アリ・サイフディン・モスク(SOASモスク)だ。

ジャメ・モスクはブルネイ一の規模を誇り、金色のドームを持つ美しいモスク。異教徒の旅行者も礼拝時間以外は入場することができる。日本の神社仏閣とは異なる雰囲気だが、ムスリムの人にとって重要な場所であることが肌で感じられる。偶像崇拝が禁止されているので、中に入っても空間だけがあるのが不思議だが、その中でも神聖な雰囲気が感じられた。

SOASモスクは時間の都合で、前の広場から外観のみを見学した。こちらのモスクもとても美しく、広場には大きなフォトフレームがあり、記念写真を撮るには絶好の場所だ。

ロイヤル・レガリアは、現ボルキア国王の戴冠25周年記念で建てられた博物館。ブルネイ国王がヒンズー教からイスラム教に改宗し、スルタンとなった歴史的な背景など、ブルネイの歴史を知るうえで必須の場所だ。戴冠式に使われた3kgもある王冠の現物も展示されている。この王冠の重さは、君主としての責任の重さの象徴であるとの説明を聞き、国王と国民の間の信頼を感じた。

エネルギー・ハブでは、経済発展の大きなポイントとなった1929年のセリア油田の発見前後におけるブルネイについてパネル展示で解説されていて、ブルネイの近代から現在への歴史を知ることができる。また、2035年までにエネルギー構成の30%を再生可能エネルギーとする目標が掲げられていることもわかる。

スルタン・オマー ル・アリ・サイフディン・モスク
ロイヤル・レガリア
熱帯雨林の豊かな自然を探究する
ブルネイ川の水上集落
ブルネイ川上流でテングザルなどが観察できる、マングローブツアーを体験した。町の中心部からボートに乗り、15分位と短時間でテングザルの生息地へ行ける。ボートからは、沿岸の水上集落や王宮、熱帯雨林ならではのマングローブやワニなども見ることができ、川幅も広く、日本では体験できない解放感がある。テングザルやワニはもっと密林の奥にいるかと思いきや、近くに民家もある場所で見ることができ、人の暮らしと自然が近く共存していることがよくわかる。テングザルはマングローブの新芽を餌としているため、マングローブの減少に伴い、その生息地域も脅かされているそうだ。自然との共存や、自然環境の保全というテーマでの探究学習にもぴったりの素材だ。

飛び地であるテンブロン地区は、1億5千万年以上の歴史があり、原始から一切手付かずの自然が残る世界最古の熱帯雨林の一つ。森林には多くの種の動植物が生息していて、その中にはボルネオ島だけに生息するものも含まれている。

テンブロン地区へは全長30kmにも及ぶ東南アジアで最も長い橋の一つ、スルタン・ハジ・オマール・アリ・サイフディン橋を渡って行ける。飛び地のため、以前はパスポートが必要で、マレーシア経由で再入国手続きをしていたが、飛び地と本土を結ぶこの橋が2020年3月に開通した。そのおかげで日帰りでもテンブロン地区へ簡単に行くことができ、ブルネイ湾の上を走る車からの景色が素晴らしい。また、橋の建設がコロナ禍における経済・雇用対策にもなったという点は、インフラ整備が経済へ与える影響を学ぶうえでよい教材になる。

橋を渡って、レインフォレスト・ロッジという場所で車からロングボートに乗り換え、テンブロン川を上流へ向かう。ロングボートは、船頭を含めて定員は5~6名の細長いボートで、縦一列に座るのが特徴的。救命胴衣を着てモーター付きのロングボートに乗ると水飛沫を受けて、まるでテーマパークのアトラクションのような乗り心地。川は浅く水も綺麗で、背の高い木々やうっそうと生い茂った森を両岸に見ながら進むと、鳥の鳴き声が聞こえたり、猿なども見ることができ、日本人のイメージするジャングル探検に近い体験ができる非日常感がある。日本とは異なる植物や熱帯雨林を見て自然を体感することができ、自然保護を考えるうえで貴重な場所だ。

上流に着き舟を降りた後は、通常はキャノピー・ウォークという原生林を見にいくツアーを体験することが多いようだが、今回は特別にブルネイ大学の熱帯雨林と生物多様性を研究する施設クアラ・ベラロング野外学習センターを見学させていただいた。ブルネイ大学との共同研究などをする場合に利用が許可される施設で、実際に海外からの研究者も滞在していた。ベラロング熱帯雨林の自然環境を学び、環境と社会との両立を目指し、環境保護や保全を考える場所だ。大学主催の2泊3日のプログラムもあるので、興味がある学校は大学へ相談するとよい。オンラインでの事前学習や説明も可能だそうだ。

昼食を兼ねて、テンブロンに2023年に開業した高級コテージヴィラ、ジ・アボード・リゾート&スパに立ち寄った。価格帯が高く客室数も少ないため教育旅行向きではないが、持続可能性を重視して、再生可能エネルギー、プラスチック削減、地域コミュニティの支援やデジタルデトックス、そして渡ってきたスルタン・ハジ・オマール・アリ・サイフディン橋の建設で発生した余剰資材や廃棄物をリゾートの建設に再利用するなど、様々な取り組みをしている新しいタイプのホテルだ。これまでは化石燃料で豊かな経済力を手にしてきたブルネイのこの新しい取り組みを、テンブロンの熱帯雨林やその自然保護、環境問題などと併せて探究してみても面白いだろう。
水上集落でブルネイの生活を体験する
ブルネイのお菓子とお茶
首都のあるブルネイ・ムアラ地区から水上タクシーを利用して、水上集落(カンポン・アイール)へ向かった。訪問したスンガイ・ブンガの住民は、元はマレーシア国境近くのバルバル島に住んでいたのを、国が国防のため移住させた人達だという。コンクリートのコテージが建ち並ぶモダンな地区で、歩道も綺麗に整備されていて、ゴミひとつ落ちていない。

ブルネイ大学でもそうだったが、水上集落に行くとお茶とお菓子が用意されていて、ブルネイの人達のおもてなしの気持ちが伝わる。甘いテータリックというミルクティーと共に出されたお菓子クエはマレー語でスイーツを意味し、ブルネイでは伝統的なお菓子全般を指す。地元で獲れた海老を使ったえびチップスも出してくれた。これらのお菓子は地元のお母さん達が作ってくれたお手製で、優しい人柄で接してくれるのもとても嬉しい。この日は、プトゥマヤンというヌードルとグリーンソースのお菓子と、クイサピットというココナッツ風味の軽いクッキーを作るところも見せていただいた。焼きたてのお菓子は優しい味わいでとても美味しかった。

水上集落では、伝統料理を作って食べたり、凧を作ったりと、それぞれの家で自分たちの得意なものの体験を提供してくれる。ブルネイの凧は日本と少し異なるが、凧はどこの国にもあるものだと改めてわかる。海上なので適度な風があり、作った凧はデッキに出てすぐに上げることができる。現地の人とコミュニケーションを取りながら、のんびりとした時間を過ごすよい体験になるだろう。
トゥトン地区でブルネイ人の普段の暮らしを知る
トゥトン市場
首都バンダル・スリ・ブガワンから東へ車で約1時間程の、緑が多いトゥトン地区を訪れた。ここでは、木曜日の午前中のみ開催されるトゥトン市場を訪問した。屋根がある広大な広場で、清潔感があってゴミなども落ちていない。週1回の開催のためか、平日にもかかわらず人出が多く賑わっていて、ブルネイの普段の暮らしぶりがわかる場所だ。お菓子や野菜、果物、海産物などの食べ物以外にも、鉢植え、刃物やカゴバッグなど、ありとあらゆる物が売られている。ブルネイでは竹や籐(ラタン)を編んだ生活用具や家具が多く、カラフルなカゴバッグはその技術を利用していて、見た目も可愛いらしく、お土産の定番商品だ。

トゥトン地区の歴史・文化を知るために、少数民族の村長さんの家であった博物館ラミン・ワリサン文化センターを訪問し、1960年代~80年代の生活や伝統について説明してもらった。ブルネイ初の新聞や、1984年に独立した際に切り替わったパスポートなどから、当時の様子がわかる。パスポートは中東の聖地巡礼に行くためのもので、巡礼の際は政府から補助金が出たとのこと。また、第二次大戦中は日本の支配下にあった時期もあり、ブルネイでは金属製のカバンのことを「カバン」と言うそうだ。ここでは、おもちゃなどなかった時代の竹馬や手作りの遊び、伝統料理などを体験することもできる。

モリ・ファームは、若いJun Hong Lim さんが7年の月日をかけて準備し、2017年に開園したオーガニック農園。最初の開墾の時以外は機械を使わず、化学肥料も使わずに農作物を作っている。農園の主要商品ヒマラヤ原産の「モリンガ」は、栄養素が豊富で、スーパーフードとして近年注目を浴びている植物だとのこと。地元の人達を雇用しながら種類や収穫量を増やしていて、現在は15種の野菜や果物を栽培している。商品デザインや園内の様子からも、若い人が新しい感覚で取り組んでいるのがよくわかる。なぜ、このような農園を始めようと思ったのか聞いたところ、「Discover Brunei」と一言。「ブルネイには良いもの、良いところがいっぱいあっても、みんな興味がない。自分は農業に特化したが、他にも良いものはいっぱいあり、ブルネイを発見してもらいたいという思いで立ち上げた」という。日本の生徒達にも、直接会って話を聞いて、進路や生き方を考えてもらいたいと感じた。ちなみに、モリ・ファームの「モリ」は、日本の「森」とモリンガの「モリ」をかけてつけた名前だとのこと。日本のアニメが好きで、日本が好きだと言っていただいたのもとても嬉しかった。
ラミン・ワリサン文化センター
モリ・ファームの Jun Hong Lim さん
ガドン・ナイトマーケット
ブルネイの食とショッピング
ブルネイアン・メイド・ ハブ
ガドン・ナイトマーケットは、東南アジアの他国の屋台や市場と異なり、屋根があり、足元は舗装されていてゴミもなく、清潔感がある。料理や食材もとても安く、米飯や麺類といった親しみやすい食べ物も多く、日本人の口に合う味でとても美味しかった。参加者で旅行中にお腹を下したりする人もいなかったので、飲み物も含め衛生面でも安全だと思う。英語やジェスチャーで簡単なやり取りをしながら、現地の食べ物や人と触れあうことができる。ブルネイ人の暮らしを知るうえでも、ぜひ訪問してほしい場所だ。

ヤヤサン・ストリートは、SOASモスクが見える開放感のあるオシャレな通りで、ここにはヤヤサンSHHBコンプレックスというショッピングモールがある。地下には、大きなスーパーマーケットがあり、食材やハラルフード、お土産となるお菓子も多く売られていて、ブルネイ人の日常を知ることができる面白い場所だ。さほど混雑しておらず、盗難などの危険も感じないので、グループ行動での買い物や食事には最適の場所だろう。

ザ・ワンは2022年にオープンした新しいショッピングモールで、新しいタイプのショップや飲食店、コンビニなどが入っている。中小企業庁DARe(ダルサラーム・エンタープライズ)が運営する店舗ブルネイアン・メイド・ハブもあり、ブルネイ産の食品や飲料、健康美容商品、衣料品などを手ごろな価格で買うことができる。ブルネイは隣国のマレーシアからの輸入品が多く、ブルネイ産の物がなかなか見つからないので、ブルネイ産のお土産を買うには良い場所だ。


ブルネイの教育旅行の訪問地としての魅力は多岐に渡る。安全・安心、人々の優しさ、きれいな英語。直行便で6時間半で時差も少ないアクセスの良さ。日本とは異なる熱帯での暮らしや、日本では触れる機会の少ないイスラム文化。町が綺麗で、食事が日本人の口に合うこともポイントが高い。コロナ禍明け以降、既存の海外教育旅行で人気のあった国や地域が、物価高や受入先の減少などで、学校交流やホームステイが難しくなっているなか、ブルネイの教育機関は海外交流を積極的に希望していることが感じられ、その点も非常に魅力的だと感じた。「平和の郷」ブルネイ・ダルサラーム国を、教育旅行の新たなデスティネーションとして検討していただければ幸いだ。

【問い合せ先】
ブルネイ・ダルサラーム大使館
東京都品川区北品川6―5―2
TEL:03―3447―7997
e-mail:tokyo.japan@mfa.gov.b
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