視察レポート
石巻・仙台・多賀城で震災と復興を学ぶ(2024年9月号掲載)
2024-09-10
大震災の記憶をつなぐ/津波伝承館
JR石巻駅から車で約10分、南浜地区では大震災の津波と火災で500名以上もの人々の命が失われた。その跡地に整備された石巻南浜津波復興祈念公園内にみやぎ東日本大震災津波伝承館がある。
展示はパネルと映像が中心。「つなぐ記憶」のコーナーでは、壁面に映し出される震災前後の街の変化から津波の怖さが実感できる。シアターの映像「くり返さないために」では、津波で子どもを亡くした女性や救助に当たった自衛隊員などの証言が胸を打つ。津波から命を守るための行動として、とにかく「高い所に躊躇なく逃げる」ことの重要性を、被災された方々すべてが強く語っていたことが印象深かった。
パネル展示では、東日本大震災の全体像や被害の実態、命を守るためにすべきことなどが学べるとともに、地域の人々による復興への取り組みも紹介されている。また、モニター画面に映像化された「一人ひとりの記憶」では、被災された多くの方々の証言を通して震災をさまざまな視点から考えることができる。
全方位ガラス張りの建物なので、住宅が立ち並んでいたはずの景色を見渡すことができるが、一番高い屋根の高さ6.9mは押し寄せた津波の高さを示していると聞き、その脅威を改めて実感した。
展示はパネルと映像が中心。「つなぐ記憶」のコーナーでは、壁面に映し出される震災前後の街の変化から津波の怖さが実感できる。シアターの映像「くり返さないために」では、津波で子どもを亡くした女性や救助に当たった自衛隊員などの証言が胸を打つ。津波から命を守るための行動として、とにかく「高い所に躊躇なく逃げる」ことの重要性を、被災された方々すべてが強く語っていたことが印象深かった。
パネル展示では、東日本大震災の全体像や被害の実態、命を守るためにすべきことなどが学べるとともに、地域の人々による復興への取り組みも紹介されている。また、モニター画面に映像化された「一人ひとりの記憶」では、被災された多くの方々の証言を通して震災をさまざまな視点から考えることができる。
全方位ガラス張りの建物なので、住宅が立ち並んでいたはずの景色を見渡すことができるが、一番高い屋根の高さ6.9mは押し寄せた津波の高さを示していると聞き、その脅威を改めて実感した。
津波の跡に森をつくる/「こころの森」
復興記念公園を「森のような公園」にすることをめざし、植樹を中心とした活動を進めているのがNPO法人「こころの森」だ。理事長の古藤野靖さんからお話を伺った。
活動を始めたのは震災の2年後。樹木の根はダムとしての機能があり、海と共生している。そうした命の循環が感じられるよう、植樹をし、森をつくる活動をしている。活動の内容は、里山で種を拾い、種をまき、発芽して苗木となったものを植樹すること。マメ科の植物から植えていくと8年くらいで森になり、クロマツは5~6mになる。人手はできるだけかけず自然に任せるようにしている。最近はSDGs学習で訪れる学校が増えているが、これは自分でできるSDGs。作業とSDGsについてのレクチャーで1時間ほどのプログラムになる。
現在、植樹はほぼ終了し、これからは間伐してその木材を利用した木工や公園内に「花の小径」をつくることを計画しているとのこと。絵本『木を植えた男』が古藤野さんのバイブルだそうだ。
活動を始めたのは震災の2年後。樹木の根はダムとしての機能があり、海と共生している。そうした命の循環が感じられるよう、植樹をし、森をつくる活動をしている。活動の内容は、里山で種を拾い、種をまき、発芽して苗木となったものを植樹すること。マメ科の植物から植えていくと8年くらいで森になり、クロマツは5~6mになる。人手はできるだけかけず自然に任せるようにしている。最近はSDGs学習で訪れる学校が増えているが、これは自分でできるSDGs。作業とSDGsについてのレクチャーで1時間ほどのプログラムになる。
現在、植樹はほぼ終了し、これからは間伐してその木材を利用した木工や公園内に「花の小径」をつくることを計画しているとのこと。絵本『木を植えた男』が古藤野さんのバイブルだそうだ。
津波火災の怖さを伝える/門脇小学校
石巻南浜津波復興祈念公園の北、旧北上川の河口近くに石巻市震災遺構門脇(かどのわき)小学校が保存されている。ここは、津波とそれが引き起こした火災により大きな被害を受けたが、学校にいた生徒たちは全員が避難して無事だった。
震災当時、石巻専修大学の教授だった館長のリチャード・ハルバーシュタットさん(英国人)に館内を案内していただいた。
当時の体育館に入るとグシャッとつぶされた消防車と乗用車が目に入る。これだけで津波の破壊力が実感できる。3階建ての本校舎では、各教室に焼け焦げた跡があり、崩れ落ちた壁や天井の建材、金属の部分だけが焼け残ったイスなどがそのままの姿で残されている。押し寄せた津波の高さは校舎床から1.8mほどというから、2・3階の教室の被害は津波火災によるものだ。館長さんからは「地震で火が出た家の建材などが津波に流されてきて校舎に延焼した。屋上に避難した人たちもすぐに裏山に逃げなければならなかった。垂直避難にも危険がある」とのお話を伺った。
特別教室があった別棟には、震災前のこの地区のジオラマや日本で発生した地震の発生場所と規模を投影したプロジェクションマッピングなどが展示されている。繰り返し流される地震直後のラジオ音声からは、その時の緊迫した状況が伝わってきて怖さを感じた。
被災した建物を震災遺構として遺すことには賛否があるが、それがあることで、亡くなられた方々の無念や被災された方々の思いをより深く感じとることができる。防災・減災だけでなく、自然と共にあることの意味や生命の尊さも考えてみたい。
震災当時、石巻専修大学の教授だった館長のリチャード・ハルバーシュタットさん(英国人)に館内を案内していただいた。
当時の体育館に入るとグシャッとつぶされた消防車と乗用車が目に入る。これだけで津波の破壊力が実感できる。3階建ての本校舎では、各教室に焼け焦げた跡があり、崩れ落ちた壁や天井の建材、金属の部分だけが焼け残ったイスなどがそのままの姿で残されている。押し寄せた津波の高さは校舎床から1.8mほどというから、2・3階の教室の被害は津波火災によるものだ。館長さんからは「地震で火が出た家の建材などが津波に流されてきて校舎に延焼した。屋上に避難した人たちもすぐに裏山に逃げなければならなかった。垂直避難にも危険がある」とのお話を伺った。
特別教室があった別棟には、震災前のこの地区のジオラマや日本で発生した地震の発生場所と規模を投影したプロジェクションマッピングなどが展示されている。繰り返し流される地震直後のラジオ音声からは、その時の緊迫した状況が伝わってきて怖さを感じた。
被災した建物を震災遺構として遺すことには賛否があるが、それがあることで、亡くなられた方々の無念や被災された方々の思いをより深く感じとることができる。防災・減災だけでなく、自然と共にあることの意味や生命の尊さも考えてみたい。
石ノ森萬画館を拠点としたまちづくりを/街づくりまんぼう
石ノ森萬画館は、『サイボーグ009』や『仮面ライダー』などで知られるマンガ家・石ノ森章太郎氏の原画などを収蔵・展示するミュージアム。石ノ森氏は、石巻市の隣、登米(とめ)市の出身だが、萬画館は石巻市を流れる旧北上川河口の中瀬にある。ここも東日本大震災の津波で大きな被害を受けたが、およそ1年8ヶ月後に再開、その後のリニューアルを経て現在は「復興のシンボル」となっている。
宇宙船のような外観の建物は3階建てで、1階の映像ホールではオリジナルのアニメが視聴できる。2階の常設展では、石ノ森氏が生み出したサイボーグ009や仮面ライダー、さるとびエッちゃんなど人気のキャラクターに関する展示が円を描くように配置されている。一回りするとSFから時代劇や日本史まで、作品のジャンルの幅広さに驚かされるとともに、氏が「漫画」を「萬画」と表現した理由の一端がわかるような気がする。
萬画館を運営する「街づくりまんぼう」は、萬画館近くにある「いしのまきMANGA Lab.ヒトコマ」を拠点に漫画を活用したまちづくりを進めている。石巻の街には、あちこちに「009」などのキャラクター像が置かれている。教育旅行向けのプログラムとしては、レクチャーの後、スタッフの案内でこのまちをめぐり、その後「振り返り」を行う。「ヒトコマ」ではタブレットや専用の画材を使ったマンガの創作体験もできる。
マンガやアニメ好きはもちろんのこと、SDGs「住み続けられるまちづくりを」を考えるうえでも貴重な体験になる。石ノ森萬画館の見学とあわせてこのプログラムを体験してほしい。
三陸の海の豊かさを知る/うみの杜水族館
JR仙台駅から車でおよそ20分、仙台港に近い高砂(たかさご)中央公園内に仙台うみの杜水族館がある。このエリアにも、大震災のときに津波が押し寄せ、大きな被害が出た。2015年にオープンした水族館には水や食料などが備えられ、緊急時には1500人の人々が収容できる避難所にもなっている。
展示は、1階が東北の海を中心とした「日本のうみ」、2階が「世界のうみ」、それにイルカやアシカなどのパフォーマンスが見られる「うみの杜スタジアム」、オタリアなどがいる「海獣ひろば」などからなっている。
エントランスを入ってすぐに現れる水槽は、何と頭の上にある。見上げると、吊り下げられたロープに付いたたくさんのホヤ。三陸ならではの展示だ。「日本のうみ」のメインは右手にある巨大水槽。屋根が無く自然光を採り入れているとのことで、三陸の魚たちが悠然と泳いでいる。圧巻は、2万匹というイワシの群泳。他ではめったに見ることができない光景だ。
水槽は全部で100あるとのこと。三陸の内湾で盛んな養殖業を紹介するコーナーでは、カキが筏から吊り下げられた状態で展示されていて、海中での様子がよくわかりとても興味深く観察できた。気になったのは、このごろ獲れ始めたというイセエビの展示。これは、海が温暖化している影響だと思われる。
「世界のうみ」では、地域別にうみの生き物が展示されている。アメリカエリアにいるイロワケイルカは、パンダのような白黒の体色が珍しい。国内での展示は2箇所だけだそうだ。飼育スタッフが案内するバックヤードツアーが一日3回ある(約30分、教育旅行の場合は要相談)ほか、要望があればレクチャーもしてもらえるとのこと。
大震災の影響を大きく受けた三陸の海が、見事に再生している様子がよくわかった。自然の力の凄さを、改めて感じることができる体験になるはずだ。
展示は、1階が東北の海を中心とした「日本のうみ」、2階が「世界のうみ」、それにイルカやアシカなどのパフォーマンスが見られる「うみの杜スタジアム」、オタリアなどがいる「海獣ひろば」などからなっている。
エントランスを入ってすぐに現れる水槽は、何と頭の上にある。見上げると、吊り下げられたロープに付いたたくさんのホヤ。三陸ならではの展示だ。「日本のうみ」のメインは右手にある巨大水槽。屋根が無く自然光を採り入れているとのことで、三陸の魚たちが悠然と泳いでいる。圧巻は、2万匹というイワシの群泳。他ではめったに見ることができない光景だ。
水槽は全部で100あるとのこと。三陸の内湾で盛んな養殖業を紹介するコーナーでは、カキが筏から吊り下げられた状態で展示されていて、海中での様子がよくわかりとても興味深く観察できた。気になったのは、このごろ獲れ始めたというイセエビの展示。これは、海が温暖化している影響だと思われる。
「世界のうみ」では、地域別にうみの生き物が展示されている。アメリカエリアにいるイロワケイルカは、パンダのような白黒の体色が珍しい。国内での展示は2箇所だけだそうだ。飼育スタッフが案内するバックヤードツアーが一日3回ある(約30分、教育旅行の場合は要相談)ほか、要望があればレクチャーもしてもらえるとのこと。
大震災の影響を大きく受けた三陸の海が、見事に再生している様子がよくわかった。自然の力の凄さを、改めて感じることができる体験になるはずだ。
今後の災害に備える/さんみらい多賀城イベントプラザ
仙台市に隣接する多賀城市は、人口約6万2000人。市域は狭いが人口密度は高い、仙台市のベッドタウンになっている。東日本大震災では市域の1/3が被災し、多くの人的被害もあった。
2020年に完成した「さんみらい多賀城・復興団地」は、今後の災害に備え、災害時の物資供給や被災した企業の操業継続を支援するための拠点となる工場団地だ。主に食品生産に関係する12の企業の工場が、現在ここで稼働している。「さんみらい多賀城イベントプラザ(STEP)」は、津波復興拠点施設として団地内に設置されたもの。そのなかを視察させていただいた。
大きな体育館のような外観の多目的イベントスペースには、なか一面に人工芝が敷き詰められている。平時には屋内スポーツやイベントなどの会場として活用されているが、災害時には、帰宅困難者などを受け入れる一時避難所として利用されるとのこと。そのため備蓄倉庫には、約3万食分の食料や水、毛布、自家発電機などが用意されていた。また、イベントスペースには大型トラックが出入りできる開口部が設けられている。これは、この施設が地域の拠点として、災害時に搬入される支援物資等の一括管理や配送を行うために利用されることを想定してのことだという。
2020年に完成した「さんみらい多賀城・復興団地」は、今後の災害に備え、災害時の物資供給や被災した企業の操業継続を支援するための拠点となる工場団地だ。主に食品生産に関係する12の企業の工場が、現在ここで稼働している。「さんみらい多賀城イベントプラザ(STEP)」は、津波復興拠点施設として団地内に設置されたもの。そのなかを視察させていただいた。
大きな体育館のような外観の多目的イベントスペースには、なか一面に人工芝が敷き詰められている。平時には屋内スポーツやイベントなどの会場として活用されているが、災害時には、帰宅困難者などを受け入れる一時避難所として利用されるとのこと。そのため備蓄倉庫には、約3万食分の食料や水、毛布、自家発電機などが用意されていた。また、イベントスペースには大型トラックが出入りできる開口部が設けられている。これは、この施設が地域の拠点として、災害時に搬入される支援物資等の一括管理や配送を行うために利用されることを想定してのことだという。
全国各地で、災害発生を想定した取り組みが進められているが、大規模な地震と津波を経験した多賀城市で学ぶことは多い。国の特別史跡・多賀城の南門が復元されたが、その見学と併せて学ぶことのできるプログラムの整備を期待したい。
今回の視察は、短時間だったが中身の濃いものだった。ここで紹介させていただいたように、仙台市の周辺だけでも「学び」の資源は豊富にある。移動時間をあまりかけずに、無駄のない「学びの旅」をつくっていく際に、少しでも参考にしていただければと思っている。
【問い合せ先】
(公社)宮城県観光連盟
宮城県仙台市青葉区本町3―8―1
TEL:022―265―8722