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掲載記事・視察レポート

視察レポート

日本海側独自の自然・歴史・文化が学べる石川・富山の教育旅行プログラム(2024年10月号掲載)

2024-10-10
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文・写真=(公財)日本修学旅行協会 事務局長 高野 満博、参与 松田 憲一
月刊「教育旅行」2024年10月号掲載
※本記事中の情報は執筆当時のもので、その後変更されている場合があります。
最新情報は問い合せ先にご照会ください。


本年夏に、「北陸三県修学旅行誘致推進プロジェクト」(富山県・石川県・福井県)主催の「北陸修学旅行現地研修会」に同行させていただき、石川県と富山県の施設や教育プログラムを視察した。今回視察した地域では、教育旅行の受入れに能登半島地震による影響は無く、安心して実施が可能だということをお伝えしておきたい。
石川県
兼六園の噴水
名園の美しさを未来に継承~兼六園で学ぶSDGs~

「兼六園で学ぶSDGs」は、歴代の加賀藩主により造られた金沢を代表する名所「兼六園」を、専門ガイドがSDGsの観点を取り入れて案内する新しいプログラムだ。

兼六園は小高い丘の上に造られている。自然の赴きを重視する日本式庭園だが、西洋を起源とする噴水がある。江戸時代につくられた日本で最初の噴水とのことだが、モーターもない時代にどうやって噴水が作れたのか、どのようにして標高53mの丘の上に水が流れているのか、など地形や仕組み等について解説してくれる。

立派な松の木やびっしりと苔に覆われた木陰など、庭園の美しい風景は、すべて生き物で構成されている。松も何があっても対応できるように、植えてある木から後継木を別に育て、対応できるようにしているそうだ。兼六園は、すべてが人の手によって造られた自然環境であり、現在でも庭師や作業員が毎日のように維持管理している。この兼六園のプログラムは、人が手をかけることによって保たれている環境について考えるきっかけになる内容だ。
さまざまな能面
「加賀宝生」700年の能楽カルチャー~石川県立能楽堂~

金沢では、加賀藩前田家に特別に保護された宝生流(ほうしょうりゅう)の能楽が民衆にも推奨されてきたことから、「加賀宝生」として現在も盛んに演じられている。兼六園から歩いてすぐの場所にある石川県立能楽堂を訪れ、能楽に触れる体験をした。ここは昭和四七(1972)年に開館した全国初の公立の能楽堂。能舞台は昭和七(1932)年に建てられた金沢能楽堂から移築されたものだ。二方向から囲んでいる観客席は約400名が鑑賞できる。

当日の体験では、足袋に履き替え、能楽師の方の説明で、能楽の基本的な構え(立ち方)や摺り足での歩き方などの所作を学んだ。日頃の姿勢や歩行と異なり、なかなか難しい。次に、能面をつけて歩いてみる。わずかな視野で動くことの不安と怖さを体感した。修学旅行では、5~6名の代表者が舞台に立ち、このような能楽体験が可能だ。太鼓や小鼓、笛などの楽器の解説もあり、体験もできる。ユネスコ無形文化遺産として世界に認められた能楽に触れることのできる貴重な学習の場だ。
ゆのくにの森の「館」
伝統工芸王国いしかわが誇る技術を体感~加賀伝統工芸村 ゆのくにの森~

石川県は、地域に根ざした伝統工芸が盛んだ。小松市粟津温泉にある「加賀伝統工芸村 ゆのくにの森」を訪れた。ここは数多くの伝統工芸を見学、体験できるテーマパークだ。13万坪ある広大な自然豊かな丘陵に、11軒の「館」と呼ばれる建物が点在しているが、これらは全て江戸末期から明治時代の石川県や北陸の古民家を移築したもの。

ここでは50種類以上の伝統工芸を体験することができるが、今回は金箔貼り体験をした。まず、用意された黒塗りの小皿に、トンボ、イルカ、月、星などの小さな模様のシールを貼り付ける。次に1万分の1ミリという極薄の金箔を筆で細かく刻んで金粉をつくる。模様をつけたい部分に人工漆(うるし)を塗り金粉を付けていくと、きらびやかでオリジナルな皿ができあがる。細かい作業だがスタッフの指導でスムーズにできた。所要時間は30分程度で一度に36名(別館60名可)が体験可能。他にも、輪島塗沈金(ちんきん)(鉄筆で模様を描き、金粉を沈める)、友禅型染、九谷焼絵付け・ろくろ回し、山中漆器蒔絵、越前焼手びねり、手漉き和紙などの体験ができる。所要時間は約15~50分、費用は体験内容によって異なる。
大聖寺高校生ガイド
地元の高校生と巡る城下町~大聖寺実業高校生ガイドツアー~

加賀市大聖寺(だいしょうじ)は、加賀藩三代藩主前田利常の三男前田利治が治めた7万石の城下町。藩政時代の風情あるまち並みが残るこの城下町を、地元の高校生が修学旅行生にガイドするという取り組みを体験させてもらった。ガイドするのは石川県立大聖寺実業高等学校情報ビジネス科の2年生たちだ。4~5名の班を2名の生徒が担当。山ノ下寺院群と呼ばれる寺社の集中しているエリアを案内してもらった。県内唯一の極彩色の五百羅漢像があり、松尾芭蕉が奥の細道の旅の途中に宿泊し一句を残した全昌寺や、著書『日本百名山』で知られる大聖寺出身の登山家・深田久弥の墓がある本光寺など、数箇所を巡る約1時間のツアー体験だった。

生徒たちは今回が初めてのガイドで、3年生になる来年度に、実際に修学旅行生を案内するとのこと。慣れないことで緊張感もあったが、自作のフリップを使い笑顔で一生懸命説明する姿に好感が持てた。修学旅行生にとっては年齢の近い生徒と楽しく会話をしながら交流できる「学生ガイド」は、両者にとって学ぶところの多い取り組みだ。
富山県
瑞龍寺
高岡のまちを築いた前田利長の菩提寺~国宝・瑞龍寺~

高岡は、加賀藩二代藩主前田利長が高岡城を築き開いた城下町。金沢が政治・文化の中心であったの対し、商工業・経済を中心に発展していった町だ。曹洞宗の名刹、国宝・瑞龍寺は、戦国時代にあって利長は戦をせずに領地を守り、その亡きあと加賀百万石を譲られた義弟の三代藩主前田利常が深くその恩を感じ、利長の菩提をとむらうため約20年の歳月を要して建立した寺だ。寺は真東を向いて建てられていて、門の先には富山を象徴する雄大な立山連峰の景観がそびえる。境内に入ると、門を通るたびに異なる美しく荘厳な伽藍が目に飛び込んでくる。また、分骨された織田信長の石廟や禅堂もある。その美しさ、雰囲気を味わうだけでも、ぜひ見学したい寺だ。

鋳物工房利三郎
150年続く工房で鋳物製作体験~金屋町 鋳物工房「利三郎」~

前田利長が産業奨励政策として、慶長一六(1611)年に7人の鋳物師を呼び寄せ庇護したのが始まりとされる高岡の鋳物産業。金屋町(かなやまち)はその発祥の地で、千本格子の家並みと石畳の道が往時の面影を伝える一帯は、重要伝統的建造物群保存地区に選定されている。150年の歴史をもつ鋳物工房「利三郎(りさぶろう)」では、錫(すず)の鋳物製作が体験できる。

砂型に鉛筆で好きな絵や文字を書き、そこを釘でなぞって彫り、溶かした錫を流し込み、冷え固まったら型をばらし、きれいに磨いてできあがり。作れるのは風鈴、小皿、箸置き、文鎮で、料金は3500円、体験人数は最大42名可能。約30分(40名程度では90分)の体験となる。大人数が一度に実施できないので、まち並み見学と組み合わせ、クラスや班単位で実施するとよいだろう。
能作の鋳物工場
鋳物工場で企業のチャレンジ精神に触れる~株式会社能作~

400年以上続く鋳物づくりの歴史を刻んだ高岡で、ものづくりのこころを伝えようと、工場見学や鋳物製作体験を実施している株式会社能作(のうさく)を訪問した。

創業は大正五(1916)年で、高岡銅器の中では後発という。それでも100年以上続いている企業で、当初は町工場として仏具や茶道具等を製造していたが、ライフスタイルの変化や景気の低迷で苦境に陥る。そこで下請け製造から切り替え、自社ブランドを立ち上げて、自社で製造から小売りまで一気通貫で請け負う改革を行った。鋳物の仕事は以前は3K(きつい・汚い・危険)と言われたが、現在では、職人の平均年齢は30代半ば、社員の7割が女性となり、全く異なるイメージの企業に変わった。

鋳物製作体験は、職人と同じ方法で砂の型を作り、スタッフがその型に溶かした錫を流し込み、自分だけのオリジナル錫製品を作る。能作では、ものづくりを五感で感じ、職人の仕事と企業のチャレンジする姿勢を学ぶことができる。
宇奈月ダム内部を見学
黒部の自然と電源開発の歴史を学ぶ~黒部・宇奈月温泉SDGsプログラム~

「黒部・宇奈月(うなづき)温泉SDGsプログラム」は、宇奈月ダムに併設された資料館・大夢来館(だむこんかん)での座学と、宇奈月ダムの見学で構成されている。

黒部川には5つのダムがあり、他の関西電力の4つのダムが発電用なのに対し、一番下流にある国土交通省が管理する宇奈月ダムは多目的ダムで、洪水調整、水道用水の確保、発電のために建設された。黒部川の源流域は3000m級の山々で降雪が多く、春になると雪解け水が大量の土砂と共に黒部川に流入し、水深1000mの富山湾に一気に流れ込む。富山湾は山の豊富な栄養素が流れ込むことにより、美味しい魚が獲れる。また、黒部川流域は氾濫も多く、冷たい山からの水は米作りに適さなかったため、「富山の薬売り」に象徴される売薬といった産業が江戸時代から奨励された、など自然と産業との関わりが説明された。

説明の後は、ヘルメットを被り宇奈月ダム内部に入って見学。夏場でもとても涼しいダムから外に出て、かつてトロッコ電車が走っていた鉄道跡のやまびこ遊歩道を川沿いに歩き、黒部峡谷鉄道宇奈月駅までの約1kmを下っていく。

宇奈月駅の2階では、黒部川開発の歴史がパネルや映像で解説されている。大正時代に高岡出身の事業家でもある高峰譲吉博士がアルミニウム製造会社の設立を計画し、製造に必要な豊富な水と電力を求めて黒部川に着目した。その後、事業を引き継いだ日本電力(株)が、電源開発のための資材運搬用として黒部峡谷鉄道の敷設を開始。その中で、「黒部開発の恩人」と呼ばれた土木技師・山田胖(ゆたか)が、工事関係者の厚生施設として宇奈月温泉を開湯した。また、黒部峡谷鉄道の途中の各村に駅を作り、鉄道を貨客兼用としたことで、地域の繁栄の礎を築いたと言われる。

駅の向かい側には黒部川電気記念館があり、黒部峡谷の自然や電源開発が難工事だった歴史や水力発電のしくみなどをジオラマや映像等で紹介している。

黒部峡谷トロッコ列車
雄大な自然の中での迫力ある乗車体験~黒部峡谷トロッコ電車~

宇奈月駅から猫又まで、往復1時間40分のトロッコ電車での旅を体験した。本来は欅平(けやきだいら)までの運行だが、能登半島地震の影響で現在は猫又での折り返し運行となっている。資材運搬用に作られた線路の車両幅は通常の列車より狭く、席は横1列4人掛けで、定員数は354名。列車が出発すると、富山県出身の女優・室井滋さんのナレーションで、沿線の見どころを紹介してくれる。レールの上を走る音が直に聞こえ、トンネルに入ると壁がすぐそこに迫ってくる。まるで遊園地のアトラクションのようだ。ダムや橋、峡谷の美しい緑や断崖絶壁など、都会では見られない景色を楽しめると共に、工事現場で働く人々が資材運搬車両に乗り、毎日移動した当時の大変さを想像することができる。

宿泊施設情報

・山代温泉 ゆのくに天祥
石川県加賀市の山代温泉にある開湯1300年の歴史を持つ大型旅館で、部屋数156、最大700名が宿泊できる。宴会場は29、食事処は大小49部屋あり、天然温泉を3か所の大浴場や露天風呂で楽しめる。希望する学校には、身だしなみとしての浴衣の着方を学ぶ「おもてなし講座」がある。

・宇奈月温泉 延対寺荘
富山県黒部市の宇奈月温泉にある老舗旅館で、昭和天皇やカーター元大統領、与謝野晶子、川端康成ら著名人も訪れた。部屋数は82、8~10畳の和室を中心に様々なタイプがあり大人数の学校も十分対応可能。温泉は弱アルカリ性で美肌効果があるという。宇奈月や黒部峡谷の学習の拠点の宿として便利だ。


北陸は標高の高い山々と豊かな日本海があり、太平洋側にはない日本海側独自の自然・歴史・文化がある。大陸からの文化の玄関口の一つでもあり、関東や関西、東海方面からの生徒たちにとって、良い学びの場となるだろう。北陸新幹線の敦賀延伸により、アクセスもますますよくなった。教育旅行の候補地に加えていただければ幸いだ。

【問い合せ先】
石川県観光戦略課
TEL:076―225―1543
(公社)とやま観光推進機構
TEL:076―441―7722
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